資格マニアの私が飛んだら、なぜか隣にこどもと王子様が寝てました



天蓋付きの大きなベッド、隣には子ども、反対側には上半身裸の男性――……。


「……は、はだか……」


ということは、やっぱり事後なの??
我が子って、つまり私は経験もないのに子どもがいて、いや違う。
身に覚えのないまま出産して、いつの間にかその子はこんなに大きくなってるってこと??


「え? 俺はね。それも上だけ。君は着てるよ」

「……そ、そうですけど、でも、その」


愛しそうに髪を梳かれ、そっと耳に掛けられる。
その途中で耳に触れたのは仕方ないよと言うように、肩に口づけられた。


「どうしたんだい? 何だか、初めての時みたいだ。まあ、可愛いからいいけど」


何だか、芝居がかった言い方。
胡散臭いなとも思ったけれど、それどころじゃない。
だって、はっきり言って好きな声だし、後ろからも明らかに好きですって甘い声がすぐ耳元で聞こえてくるのだから。
思わずぎゅっと目を瞑る前に、彼が手遊びで弄る自分の髪がなぜか金色に見える。


(金髪……! 私の髪まで……)



「……エナ……? どうしたの、気分でも悪い……? それとも、怖かった……かな。久しぶりだったから、もしかして俺、乱暴なことでも……」

「……ち、違います……! 」


(……たぶん)


どんなだったか、まっったく記憶にないけれど、少なくとも今の私は不調を訴えていない。
恐らく……恐らく、願わくば普通の営みだったのだろう。
それもまた、私にはよく分からないけれども。


「そう……? よかった。でも、その喋り方も、何か初めて会った時みたいだし」

「……そ、その。久しぶりだったし、緊張して……」


なんで、どうして夢とは言え、他人のアレコレを語らなければならないのだろうか。
いや、これは自分の……?
何が何だか分からないけれど、私はこの金髪イケメンとそういう関係で――夫婦、だとは思う――既に子どもがいる。
そういう設定の夢、だ。


(……あ、あぁぁ、そっか! )


寝落ちる前、確か私は「王子様」に救いを求めた。
もちろん本気のはずもなかったが、意識を手放す寸前の思考の続きを夢で再生しているのだ。


(そっかそっか……それなら)


楽しまなきゃ損だ。
こんな状況、滅多にない――いや、あってほしいなら、そうなる努力をすれぱいいのに、なかなかできないし、予定は皆無。
それなら、夢くらい幸せに浸らせてもらおう。


「エナ? 」


ほーら。
だって、姿は違っても、子どもがいるようなことをしたことがなくても、彼は私を呼んでいるし。


「ははしゃま……」


この子は私にくっついているんだから。


(何なの、このキュンキュンな夢は……あ、願望か……)


ぷにっとしたほっぺを突くと、こちらの頬も緩む。
ああ、そっか。私――……。


「あ、狡いな。俺にも構ってよ」


まだ早いとか、まだ欲しくないとか。
自分で思い込もうとしていただけで、本当はずっと羨ましかった。
だしても、設定が何だかファンタジーな理由は分からないけれど、そこが夢ということだろう。


「……ん……」


何にせよ、目が覚めれば片づけとメイク落としが待っている。
今はこの幸せを堪能したい。
強請るような青い瞳に眩んだ目を、そっと閉じた。