資格マニアの私が飛んだら、なぜか隣にこどもと王子様が寝てました








「じゃーん。今日は、クマさんのぬいだよ。可愛いでしょ」


この城には娯楽が少ない。
笑顔で受け取るノアくんを見ると、会いに来るたび何かしら持ってきてくれるのは有り難いけど。


「で、ね。会って早々、なんだけどさ。義姉上と話したいことがあるから、レックスは下がってくれない? 」

「…………了承致しかねます」


言葉こそ丁寧だけど、だからこその「んなの、ダメに決まってるだろ。馬鹿か」という心の声が、表情から余計に感じられる。


「分かってないなぁ、レックス。僕は君の友人じゃない。でしょう? 」


クスッと笑った拍子に細くなったエインの目が、再び開かれる。
それは確かに、可愛いとも思えるのに。


「……っ」

「……なぜ、僕がお前に了承されないといけない? それは反意と見なしていいのかな」


いつの間にか一歩踏み込んでいたエインから、レックスが咄嗟に後ずさった。


「……失礼致しました。しかし、ユーリ様にご報告は必要かと」

「うん。兄上によろしくね。心配しなくても、二人は僕が必ず守るから」


そう言って、私とノアくんの方を向いたエインの顔は、いつもどおりふんわりとした微笑を浮かべている。


「別に、レックスが邪魔だとか嫌いとかではないんですよ。彼は “使用人の子のくせに” って言わないし。寧ろ、いい人に分類してる」

「……話したいことって? 」

「そう警戒しないでください。僕は貴女やノアに危害を加えないし、敵じゃない。四六時中気を張ってたら、疲れるでしょう? 何があっても、僕が守りますから。それに、どうせすぐ兄上が駆けつけます。どうかそれまでの短い時間を、僕に頂けませんか」


ジルももうすぐ戻ってくるだろう。
彼女が戻った時には、話を終わらせていた方がいい気がする。


「ははしゃ」

「大丈夫。クマさんは、ノアが持っていて」


元気がないと思ったのか、貰ったばかりのぬいぐるみを貸してくれそうになるのを止めて、ノアくんの頭を撫で、覚悟を決めた。


「座って」

「ありがとうございます」


エインは立場上、悪役かもしれない。
でも、どうしてもただの悪人だとは思えない。


「誤解している人が多いけど、僕は本当にノアのことを可愛いと思ってるんです。……ううん。愛しい、かな」

「ノアのこと、可愛がってくれてるのは伝わってるわ。それが演技だとは思ってない」

「よかった。じゃあ、義姉上のことは? ちゃんと、伝わっていますか」


正面に座ったエインの手が、いつもユーリがするようにノアくんの頰を突き、そのまま上がって今度は私の頰を包む。


「貴女のことが好きだって。演技でも何かに利用しようとしているのでもなく、本当に大切だってことも伝わってる? 」

「……それは」


よく分からない。
嘘を言っているとも思えないけど、信用できるとも思えず、ノアくんのような確信には至らない。


「いきなりそんなことを言われても、困りますよね。でも、兄上ならどうです? ……本当に心から愛され、結ばれて、ノアが生まれたんじゃない……ですよね」

「……ユーリ様のことは好きよ。そういうものだって、受け容れる必要があっただけ」


そんなものだ。
ただ、この世界では、エナの立場では、そうだったんだ。


「そうですよね。義姉上は、そうするしかなかった。ノアも生まれて、お互いある種の愛情が芽生えたのかもしれないけど、僕は」


――何の利点も都合も関係なく、貴女のことが好きだ。


「愛してるんです。兄上よりもずっとそうだって、確信してる。だからどうか、兄上ともそうたったように、僕にも」


―― 一度だけ、その機会を頂けませんか。