それからの私は、ユーリと勉強に勤しんでいた。
ここ数夜で、彼が自室に戻った後は、こうしてベッドで学ぶのが日課になった。
――と、言っても。
(難しすぎる……)
「お前、物覚えが悪いな」
「う、うるさいわね。私の国と、名前のスタイルが全然違うのよ……」
そう。
さすがにこれじゃマズイということになり、とりあえずエインやレックス含め、重要度の高い人物の顔と名前、役職、立場や性格などを教えてもらえることになったのはいいけど。
(西洋風の名前をこれだけの人数分、一気に覚えるのは辛い……)
「何だ、それは。そういえば、お前の本当の名はエナじゃないのか? 」
「それが不思議なことに、私もエナなのよ。意味分からないけど」
「……こっちはもっと分からん。そんな無茶苦茶な存在に、ここまで国家機密を話すのは、かなり迷った。いや、迷うこと自体、俺はどうかしてる」
「……言いたいことは分かる。よく、話してくれたわね」
本当に、ものすごく勇気が要ったと思う。
つまり、そこまで切羽詰まってるのかもしれない。
「エインと話したんだろ。あいつは表面上ノアに好意的だが、俺のことは少なくとも複雑に思っている。疑いたくはないが、確かに俺の存在は邪魔だろう」
「……あなたを嫌っているようには見えないけど……そうね。聞きたかったんだけど、エナとエインの出会いってなに? とても、兄の妻を紹介されただけだとは思えないんだけど」
「それが、分からない。俺の知っている出会いとやらは、そのとおり、俺や国王にお前を紹介されただけだ。だが、そこからお前に惚れるまでに、何かしらあったとは思う。執着の仕方が尋常ではないからな」
「……そうよね」
困った。ユーリすら知らないとは。
エインと二人だけの時に思い出話でもされようものなら、かわしきれない。
「分からないのは、ノアのことは可愛がってくれるところだな。他の子どもには感心を示さないし、子ども好きという感じでもない。何より、ノアの “あれ” が働かない。寧ろ、懐いてるくらいだ」
「……うん……」
ユーリには言えないけど、エインのノアくんを見る瞳から感じるものは、叔父というより父性に近い気がする。
「別に、何も疑ってない」
「何も言ってないわよ」
もしも時期が微妙だったとしても、それはないと思う。
「私は、エナの何も知らないけど……ノアは、あなたとエナの子だわ」
「……なぜ、泣く」
(……え)
上手に笑ったと思っていた。
なのに、どうして私は。
「ノアは、俺とお前の子なんだろ。……なら、泣くことはない」
上手に笑おうと気を張った時点で、既に泣きそうだったのだ。
ノアくんが、自分の子どもじゃないこと。
それに、もしかしたら――……。
「それをお前が、勝手に忘れてるだけだ」
ユーリと、エナ――他の女性が、愛し合ったということも、なぜか悲しんでいるの……?



