「……そう」
ノアくんの「あれ」。
単純に興味があるものを指していることもあるけど、後から思うと「何か」を教えてくれることも多かった。
ハーブのこと。
窓から狙う何者かのこと。
ユーリが狙われたこと。
「このことを知るのは、俺と国王のみ。レックスは気づいているだろうが、あいつから聞いてくることはないだろう」
「……分かった」
ベッドの上、私とノアくんの隣にユーリが腰を下ろす。
親子三人揃っているのを喜んでくれているのか、ノアくんがバンザイをすると、こつんと両腕が私とユーリを優しく掠めた。
「……それも、国政に使われかねない。現王はいい国王だが、残念ながらいい祖父にはなれていないから」
「……ユーリ」
「滑稽な話だろ。そもそも、ノアの能力に関しては大人の俺たちが勝手にそう解釈しているだけかもしれないっていうのに。今はまだ、ノアに確かめることもできないし……したくない。そんな腑抜けには、まだ王座は早いそうだ」
そんなの、腑抜けだなんて言わない。
人として父親として当たり前の感情が国の妨げになるとは、私は思わない。
「ユーリ」
「それに、その力が関係しているのかは不明だが、ノアはあまり喋らない。俺が甘いせいだと言われるし、甘いかと言われれば否定できないが、でも……」
上がったままの両手を交互に見て、私たちの間でぽかんとしているノアくんの片手をそっと握る。
そして、かなり迷ったけど、もう片方の手でユーリの膝に触れた。
「ユーリは間違ってない。ユーリの甘さは、ちゃんと父親の甘さよ。いつかは、王と王子の時間も必要になるのかもしれないけど、その時には二人とも準備ができている。言葉のことだって、その子によってそれぞれで、ユーリの言うとおり力が関係しているかなんて確かめようがないわ。少なくとも、今のところは」
「……エナ」
ずっと、一人で背負ってきたのかな。
何の欲目なのか、私にはエナが完全な悪人だとはどうしても思えないけど、二人がすれ違っていたことは確かなんだ。
「私は、ノアくんを傷つけたりしない。何が何だかまだ私にも分からないままだけど、それだけは誓える。その気持ちだけは、ユーリに寄り添えると思う」
「……お前は」
「信じなくてもいい。これまでも勝手に約束してたし、今後も勝手に誓っとくから」
「勝手にしろ」
「するんだってば」
ユーリのぶっきらぼうになりきれていない声が、いつもの私用のものより柔らかい。
放っておかれた手が、いつの間にかどちらの側も繋がれているのに満足したのか、ノアくんが声を上げて笑った。
ユーリの掠れた声が、ノアくんの元気な声に掻き消されたけれど、本当は簡単に推測できたはずだ。
『お前は、帰るのか』
ただあまりにもその答えが決まりきっていて、喉の奥から絞り出すことが今の私にはとてもできなかった。



