「……ははしゃ〜〜っ」
「母様は、お怪我で熱が高いんだって言ってるだろ。起こすな」
「とと、いや」
「〜〜っ……ノア、いい加減に……」
鳥のさえずりよりも先に、微笑ましい会話が聞こえて目が覚めた。
「……おはよう」
抱き抱えたノアくんに「いい加減にしなさい」と言いながら、頬をぷにぷに突きまくるユーリに笑ってしまう。
「……っ、目が覚めたか。気分は……あ、こら」
「ははしゃっ」
ベッドに転がり落ちてくるノアくんを抱くと、何だかものすごく久しぶりな気がしてほっとする。
「大丈夫。……ずっといてくれたの? 」
「当たり前だ。……どちらにしても、寝れるわけない
」
熱がないことを確かめた掌がなぜか頬まで降り、唇の近くまで指が届いた。
「だ、大丈夫よ。まだちょっと怠いけど、ちゃんと喋れるし」
あのままだったらどうしようという恐怖はあったし、半ば諦めもあった。
ユーリやジル、医師たちのおかげだ。
「ははしゃ」
「うん。大丈夫」
ぽよっとした泣きそうな顔を見ると胸が痛い。
何とか顔に出ないようにして、ノアくんをそっと抱きしめた。
「……何か、聞きたいことはあるか」
「……レックスは? 」
ノアくんもユーリもここにいるのに、護衛の姿がないことに嫌な予感がした。
「……謹慎している。お前を守れなかったからな」
「そんな……」
「レックス自身が申し出た。他の目もあるし、実際甘いとの声も上がっている。禁固刑でも何でもない。自室でのんびりしてるさ。気にするな」
近くにいたレックスに、ノアくんを預けたのは私だ。
あの状況で、私を庇うのは難しかっただろう。
「……他には? 」
「……他に、あなたが教えてくれることはある? ないなら、今はこれ以上聞かない。あ、できればもう少し話を詰めておきたいわ。レックスみたいにあなたに近い人から追及されると、どうしたってボロが出てしまう」
無理にいろいろ聞いても、疑われるだけだ。
ユーリはきっと教えてくれないばかりか、せっかくノアくんのことに関しては多少信用してくれているのに、それまで無になってしまう。
ノアくんを守りたい。
それに、彼といられなくなったら、私はこの世界でどう過ごしていいのか分からない。
ノアくんのおかげで、この意味不明な状況で発狂せずにいられるのだ。
「気づいたんだろう? それは当たっている」
そうはっきりと問われても、口にしていいのか分からなかった。
言葉にしたからといって何も変わるはずはないのに、それがいいことなのか悪いことなのか、答えが出ないからだ。
――どうやら、ノアには未来が見えているようだ、と。



