これが折衷案。
私もジルも、理解に苦しむ顔をしていたのだろう。
ユーリがわざとらしく首を振った。
「さすがに、何の見張りもつけないのは皆の目を誤魔化しきれない。それに、どちらかと言うと護衛の意味の方が強いんだ。頼むから、俺の為に頷いて。エナ」
(……どういうつもり……? )
何の処罰もなくジルを自由にさせるのは難しいと、昨日ユーリは主張していて、曲げる気もなさそうだった。
本当に、私はともかくノアくんの気持ちを汲んでくれたんだろうか。
「……私はジルといます。その方が、監視もしやすいでしょうから」
ここにはジルとノアくん、親友だというレックスしかいない。
それにも関わらず、ユーリが「エナ溺愛王子様モード」になっているのはなぜなのか。
『親友でも消す』
つまり、親友すら、完全には信用できないということ。
ユーリは、その決断ができてしまう人だ。
ただ、苦しみを伴うのは他の人間と同じというだけ。
いっそ、本当に悪人だったなら、彼もまだ楽だったんだろうか。
「どうか、護衛だと思って」
「……お気遣い、ありがとうございます」
レックスがどういう人なのか、まだ分からない。
ユーリがほんの僅かでも信じきれない部分があるのなら、私が無条件に隙を見せてもいい人ではないのだろう。
何より、この男もユーリと似たものを感じる。
少しでも怪しいと思えば、躊躇うことなく断じてしまう。
それは仕事なのかもしれないけど、ジルをそんな目に遭わせたくない。
「二人して、そんな顔しないでくれ。俺だって嫌なんだよ。こんな男に、妻子を預けて仕事するなんて不安しかない」
「お前がいない間に、俺が父様になってるかも」
「忠誠を誓うことになる、王妃になる女性だぞ」
親友とはいえ、王子に向かって何という発言。
仲がいいのもあるだろうけど、レックス自身も疑われていることなど百も承知というように見える。
ある意味、強い信頼関係ということか。
「その時は跪くさ。それまでは、立ったまま口づける」
「俺を親友殺しにさせるな。……とは言っても、腕の面では他に適任がいなくてね。なるべく、不自由はさせないようにするから」
私の代わりにぷいっとしてくれるノアくんの頬をそっと撫で、私のところで視線が止まったことに驚いて見上げた。
「……ノアを頼む」
「……はい」
(もしかして、お茶の一件の他にも何か起きてる……? )
それなら本当に、護衛が必要な事態なのかもしれない。
ジルはもちろん、レックスからも悪意は感じない。
何より、ノアくんの近くに出入りできるということは、それなり以上に調べられているのだろう。
――それでも、100%信用できる人物はいないと。
それどころか、少なくとも今は私だけなのだと言われたようで、思わずノアくんを抱く腕に力が入る。
もし、もっとユーリからの信頼を得ることができれば、もう少し詳しく教えてくれるだろうか。
ノアくんの身に起きていることを知れたら、こんな私でも彼を守れるかもしれない。
(……ううん)
絶対に、やるんだ。



