資格マニアの私が飛んだら、なぜか隣にこどもと王子様が寝てました










あの後、何も悪くないのに謝りに来てくれたジルを見て、話すべきかすごく迷った。
恐らく、ユーリには叱られるだろうが、それよりもジルの身体の方が大事だ。


「……っ、毒……!? そんな、それこそどうお詫びしても足りません……! あの、でもどうか、家族だけは……!」

「落ち着いて。ご家族もジル自身も咎めたりしないわ。今後のこともあるから知っておいてほしいだけ。それにね、あれは毒ではない。正真正銘、ただのハーブよ。ただ、効用に注意が必要なものがあるの」


顔面蒼白のジルの両肩に手を置き、できるだけゆっくり穏やかに語りかける。


「さっきはごめんなさい。ちゃんと説明する暇がなくて」


私にはリラックスできる効果があっても、妊婦や妊娠を希望する人には良くないものが、一例としてあること。
他にも、人間にはいい香りでもペットには使えないものもあったりする。
いい悪いではなく、使い方が大事なのだ。


「……エナ様……私の為に……? 」

「当たり前のことよ。それに、知っていたのはジルが話してくれたからだし」

「……っ、で、でも。あのお茶、エナ様が召し上がったこともあるんです。だから、やっぱり、同じことです。何の罰もないなんて、許されるはずがありません」


(……やっぱり、そうなんだ)


幸い、私はもちろん、ノアくんはあのハーブの影響を受けてないと思う。
まったく何も知らなかったとはいえ、この件が明るみに出れば、ジルが罰を受ける羽目になってしまう。


「あなたは、何も知らなかったのよ。私が言うまで、このことは誰にも話さないで」

「……でも……! 」

「ジル。いいわね」


ユーリに報告は……しないといけない。
ノアくんを狙った可能性を否定できないからだ。
でも、絶対にジルを処罰させたりするもんか。
彼女が利用された可能性もあるし、そもそも誰も知らなかっただけかもしれない。
エナの命令で栽培されていたのかもしれないし――そう思ったけど。




・・・



「お人好しも、度が過ぎるとただの馬鹿だな。いや、周りに被害があるんだから、それじゃ済まない」


怒られるどころか、ものすごく偉そうに上から見下された。


「……だ、だって。偶然かもしれないじゃない。そんな不確実なことで、ただポットを持ってきただけの侍女を責めるの……!? 」

「確かに、偶然だった可能性は否定できない。だが、そこは最早大したことじゃないんだ。お前やノアに害があるかもしれなかった。その、罪は残る」

「でも……! ジルは、何も知らなかったかも……」

「だから。つまり、知っていたかもしれないだろ。もっと言うなら、彼女が主犯だったかもしれない。その可能性を捨てきれないなら、その時点で処分するべきだ」

「…………」


何も出てこなかった――涙の他は。
慈悲のない、瞬きすらしていないんじゃないかと思う瞳が恐ろしくて。
何もできない自分が悔しくて、涙が止まらなくなるのが嫌だ。


「今見逃したことで、次が起きたらどうする。父親としても王族としても、ノアの命に代えられるものはないんだ。嫌なものから目を背けて、理想論を吐くのはよせ」


(どうしよう。一体、どうしたら……)


でも、ユーリの言うことも正しい。
私は、みんなが善人でそのみんなが一緒にいられる理想しか見られない。
事実起きようとしていたことから目を逸らし、時間稼ぎをしているに過ぎなかった。


(……ごめんね、ジル。何とか抗いたいのに、何も思いつかな……)


「わぁぁぁあん……!!!! 」

「「……!?!? ……ノア……!? 」」


思わずユーリと顔を見合わせて、不本意だと感じる間もないほど、二人揃って慌てて外に出た。