資格マニアの私が飛んだら、なぜか隣にこどもと王子様が寝てました



『そんな怪しい資格、取る意味あるの? 』

『お金、無駄じゃない? どうせなら、もっと仕事に役立つのとか、昇給に有利なのとかさ』


みんな、大体そう言った後に続くんだ。


『……あー、うんうん! 趣味だもんね! すごいよ、英菜(えな)!! 』



・・・



「〜〜っ、だっっったら、最初から言うなっての……!! 」


ダンッッ!!
缶のまま飲んでいたチューハイをテーブルに叩きつけると、ほんのすぐ側にあったグラスが呆れ果てたみたいにカランと倒れた。


何から何まで、余計なお世話だ。
別に、何かアドバイスを求めたわけじゃない。
むこうから

「最近、何してる? このままじゃヤバいから、何か習い事でもしようかと思って」

……って聞かれたから、素直に「勉強して、資格取ってる」って答えただけなのに。
「どうせその歳で勉強するなら、国家資格にすれば? 」とか余計な助言をした挙句、盛大に憐れんできた。


(……別に、仕事にしたくて勉強してるつもりじゃない。趣味)


それも嘘じゃない。でも――……。


「〜〜あぁぁぁ、もうっ……! 」


もう一口煽り、突っ伏す――ほどのスペースはないので、仕方なくテーブルに額を預けた。
倒れたままのグラスを指で弾けば、自棄酒に付き合いきれず床へと転がり落ちていく。

――「ただの」趣味にはしたくない。


(……でも、役に立たないって辛いな)


趣味で食べていくのが難しいことも、好きなことで手助けができればなんて自己満足が叶わないことも、もう理解はしている。
そもそも、「喜んでもらえる」なんて、他人に何を期待したり強制したりできるだろう。
それどころか、更にはお金を貰おうだなんて。
もちろん、それができる人だっている。
限られてはいても、この現代においてはそんな人を見つけるチャンスだけは溢れ返っているのだから。
人の役に立つどころか、自分を際立たせるのすら困難すぎる。


『まーだ、声掛けれてないのかよ。後悔するぞ』

『……そ、そんな。俺なんて……』



立ってるだけでそんなふうに憧れられちゃう、羨ましい人種も存在するのに。
世の中には、じゃない。
数はそんなに多くなくても、社内で、ごく身近にだ。


「……いいな」


ぼっちの酔っ払いは素直だ。
聞こえてきたコソコソ話に勝手に羨ましがって、一人小部屋でくだを巻いている。
それでなくても、可愛い人も優秀な人もこの現代日本にはそこらじゅうにいるのだ。
スキルなし、盛り耐性なし、可愛げも純粋さも過去に置いてきた独身OLは一体どうしたらいいの。


「……むり……この世界ハードモードすぎる……」


生まれたのが、いっそ別世界の別の時代だったらよかったのに。
そしたら私だっておモテになって、どこかの王子様に見初められたかもしれないし、そうじゃなくてももう少しくらい世間様に認められていたかも。


「……助けて、おうじさま……」


眼鏡を掛けたまま瞼を閉じれば、ほろりと涙が落ちていった。
なんて、みっともないんだろう。
誰も見てないからいいや、はとっくに思えなくなってきている。

――誰か、見ててくれたらいいのに。