色褪せて、着色して。~リリアン編~

 私は、魔法が使えない。ピアノとしてのスペックがあるだけ。
 でも、魔法や呪いがかけられているかは、感覚としてわかる。
 スカジオン人なら、全員だと思う。
 ただ、念のため。妖精であるバニラにも、こっそり訊いたら。
 姿は見えないけど。「呪い」の気配があることを感じ取っていたらしい。

「あの、もしかしたら。おせっかいだったかもしれません。ごめんなさい」
 私は頭を下げた。
 これ以上、深堀りするつもりはない。
「ヒサメ様のことは、口外しませんで安心してください」
 奥さんである彼女が、これだけ動揺して、傷ついている。
 話すべきではなかった。

 私は後ろに立っているバニラを見た。
 帰ろうという合図を目で送る。
「お忙しい中、ありがとうございました」
 ゆっくりと立ち上がる。

 カスミ様は結婚して、お子さんがいて。
 とても、幸せそうだとばかり思っていた。
「呪いは解けないって言われたそうです」
 悲痛に…大声でカスミ様が言った。
「17歳のとき。呪いをかけた魔女が死んでしまったから。一生、この呪いはとけないって」
「17歳のときって何年前ですか?」
 私は座った。
「何年前って、もう20年以上…」
「カスミ様。時代は変化しています。医療も魔法も進化しているんです。解けない呪いはないんですよ」
 カスミ様は目を真っ赤にして、私を見ている。
「私の言うことが信じられないのはわかります。呪いで傷ついていることも知っています。でも、どうしても呪いで苦しんでいるのなら、一度。我が国に来てみてください。呪いは解けますから。もし内密でということでしたら、王族を通じてでも構いません」
 私は再び立ち上がる。
「一度、ご主人と話してみてください。ありがとうございました」
 頭を下げる。
 ごきげんよう…と言って、一歩、二歩歩きだす。
「この屋敷に、マヒルさんを入れなかったのは。この屋敷が秘密の館って言われてるからなんです」

 帰り際、カスミ様は傷ついたように言い放った。