しかし。国家騎士の肉体班で、それなりの地位のある人間って誰だ?
 帰りの馬車で考え込んでいると。目の前に座っていたバニラが、
「一人だけ心当たりがありますわ」
 と、微笑んだ。

 毎度、来るたびに。
 どこまでが、敷地内なのだろうと思ってしまう。
 屋敷があり、庭園があり。
 畑までもある。
 案内された庭園には、テーブルと椅子が用意されていて。
 既にお相手は、どっかりと座り込んでいたけど。
 こっちに気づくと、勢いよく立ち上がって。
 90度身体を折り曲げて頭を下げた。
 騎士としては小柄だけど、ヤンキーのような鋭い目をしていて。
 恐らく私生活でも、ヤンキーぽいんだろうなというのが想像出来る。

「お忙しい中、お時間をいただきありがとうございます」
 私は、負けじと頭を下げる。
「姫君。貴女は姫君なんだから、俺ごときに頭を下げちゃいけない」
 見かけによらず、柔らかな口調で言うので。
 そのギャップが変な感じだ。
「姫君が俺を頼ってくれるなんて、奇跡かと思った」
 アハハハと笑うと。綺麗な顔立ちだなと思ってしまう。
 同年代かと思いきや、イナズマさんはひとまわり以上の年が離れているというから驚きだ。

 イナズマさんと話すのは数え切れるほどで。
 知り合ったキッカケはカスミ様という貴族の女性がキッカケだ。
 私が住む村には、若い女性がいないと言って等しい。
 というのも、前王妃によるものだというのは聞いたけど。
 理由が恐ろしいので、ここでは語らないでおく。

 日中はほとんど雨の降ることのない。
 暖かな気候の中でのティータイムは、心をほっこりとさせてくれる。
 普段、屋敷で働いているセリくんとキキョウくんがケーキと紅茶を用意してくれた。
 今日はナズナくんとカイくんの姿がない。
「おう、セリ、キキョウ。ありがとな」
 見かけによらず、優しいイナズマさんは2人にお礼を言うと。
「んじゃ、用があったら。こっちから呼ぶから散れ」
 と。手で2人を追い払った。

「あの。お忙しいでしょうから。単刀直入に言います」
 私は、姿勢を正して言うと。イナズマさんは「おうっ」と言って紅茶を飲んだ。
「ある男を、国家騎士の肉体班に入れて欲しいんです」
 ガチャと乱暴にティーカップを置いたイナズマさんは。
 怒ったような表情でこっちを見た。