色褪せて、着色して。~リリアン編~

 トペニは、一言で説明すると罪人だ。
 未成年の女の子を集めて、娼婦館で働かせていた。
 まあ、首謀者はトペニではない。
 トペニは女の子たちのお世話兼護衛係として、娼婦館で働いていたというのが事実。
 親玉は、貴族であるオーナーだそうで。
 そのオーナーとやらは、王族とも繋がっているとかで。
 今まで逮捕されなかった。
 逮捕…という言い方はこの国では正しいのか。
 この国には、警察という組織はない。
 悪い奴がいれば、騎士が捕らえる。

 違法な娼婦館があることは、国王の耳に入っていたそうだけど。
 いつまで経っても首謀者を捕らえることが出来なかったことにブチ切れた国王は。
 あろうことに、私を囮にして娼婦館の首謀者を捕らえる計画を立てた。
 その娼婦館で出会ったのが、トペニだ。

 娼婦館で働いていた人間は。処分…されるはずだけど。
 寸前のところで、私はトペニだけを助けてもらうように国王にお願いした。
 何故、そんなことをしてしまったのか。
 良心というのが自分の中で眠っていて。
 動いたのは、アレ一度きりなのかもしれない。

 だって、納得できる?
 あの状況で、死刑って飲み込める?
 トペニは死をを覚悟して、後のことは任せたと言ったけど。
 私には、無理だと思った。
 自分でどうにかしろと言ってやった。

 私の国だったら裁判制度があって、瞬時に罪状を決められることはない。
 この国は…、この国のルールを私は飲み込めない。
 トペニの罪が、この国にとってのどれだけの罪になるかは計り知れない。
 でも。
 私はトペニのやっていることは間違っているとは思えなかった。
「国家騎士団というのは、専門の学校に通って。段階を踏まないといけないと聞いたのですが」
 後ろにいるカイくんを気にしたせいか、声が小さくなってしまう。
 カイくんは、騎士を目指して専門の学校に通っていたけど。
 事情があって卒業できなかったと聞いている。
 カイくんは、首を傾げているだけだった。
「トペニは、騎士の学校を卒業して北部の騎士として働いていたらしい。念のため、裏は取ってある。一応、俺の方で剣術・武術は腕試ししておいた」
 後ろで、バニラが「まあ、さすがでございます」と言った。
 カイくんは、何かを書いたかと思えば。スケッチブックをバンバンたたいた。
「トペニは、それなりにつよかった。最後、ボコボコにされてたけど」
 と書いてあるのを見せて笑った。

 …世界最強と呼ばれるサンゴさん相手に腕試し?

 たらりと額にイヤな汗が流れた。
「ま、ポンコツではねえから大丈夫だろ」
「あの。そんな簡単に国家騎士に所属できるものなんですか?」
 夫が国家騎士とはいえ。
 私は、国家騎士団の内情を知らない。
 サンゴさんは睨みつけるように私を見たかと思えば。
 ふっ…と表情を崩した。
「簡単なのはコネだな」