色褪せて、着色して。~リリアン編~

 初めてサンゴさんを見た時。
 私は失礼ながら、悲鳴をあげてしまった。
 正直なところ、今でも慣れない。
 右腕のないサンゴさんの姿を直視できない。
「まあ、風の噂で姫様も、大変な目に遭っていたというのは聞いた」
 わざと、姫様…と呼ぶサンゴさんに苦笑してしまう。
 いつもは「あんた」と呼んでくるはずなのに。

 カイくんはちょこまかと動いて。
 私とバニラにお茶を用意してくれた。
「ありがとう」と言って頭を下げる。
 ここで、カイくんは席をはずすのかと思ったら。サンゴさんの後ろに座った。
「ま、俺の方は暇だからな。それなりにアイツをどうするか考えてみたんだが…」
 サンゴさんは、カイくんが用意してくれたお茶を一口飲むと。「ちょっと濃くねえか」と後ろに座っているカイくんに言った。
「トペニのことなんだが」
「はい」
 初めて、具体的にトペニという言葉が出てぴくっと身体を震わせる。
 自分の身勝手な行動でトペニのことを引き取ったのはいいけど。
 それから、どうするかなんて。何も考えていなかった。
 気づけば、手のひらはベトベトに汗をかいている。
 サンゴさんの鋭い目はこっちを見ている。
「俺は、トペニを国家騎士団に所属させたほうがいいと思うんだ」
 …予想外の提案に、「へ?」とマヌケな声しか出なかった。