出会ってから一度だってルピナス様が喋っているところを見たことはなかった。
「え!? ルピナス様、喋れるんですか」
 思わず、ルピナス様の両肩を手で掴んでしまう。
 そして、馴れ馴れしく触ってしまったことに、すぐに気づいて。
「申し訳ありません」
 と頭を下げた。

 本当にこの子は、ルピナス様だろうか。
 西日のせいで、瞳の色がわかりにくい。

 じいーとルピナス様の顔を眺めるけど。
 ルピナス様は、不快感を見せることもなく。
 こっちを見るだけだ。
「どういう・・・」
「僕と結婚してほしい」

 私が喋るのを食い止めるように。
 ルピナス様は、かぶせるように言った。

 情報処理が追いつかなかった。
 固まるしかなかった。
「手を出して」
 と言い出した。
 言われるがまま、右手を出すと。
 ルピナス様は何かを手のひらに乗せてきた。
 わずかに重みがあって。
 金属で出来た花かと思いきや、中央がきらりと光った。
「これが僕の花嫁の証」
 …初めて。
 ルピナス様は笑った。
 笑う表情はあまりにも美しくて。
 見とれてしまいそうだった。
「ルピナス様、花嫁というのは…」
「また、会おうね。マヒル」
 ルピナス様は私の頬にチュッと音を立てて唇を押し当てると。
 走り去って行った。