遣らずの雨 上

『すごいな‥‥
 新名の家みたいだ‥‥。』


ここは生花から観葉植物、多肉植物
エアプランツ、鉢花、鉢や花器など
が豊富でサボテンや盆栽まである


「楽しめますか?」


『ああ、来て良かったよ。
 君のことが知りたいからね。』


「私なんかのことを知っても何も
 面白くないと思うんですけど‥‥。」


初日に交わした台詞に確か同じような
事を伝えた気がするけど、交友関係も
乏しく、趣味も少ないから魅力も
ないはず


今だって‥‥お店の中にいる人達が
酒向さんに釘付けで、私の方を見て
笑われたらコソコソ何かを話してる
人が多い


分かってる‥‥‥。


釣り合えるなんて思ってもないし、
そもそも顔や体の作りが違う人と
同じようにだってなれない。


それでもここに居られるうちは、
下を向きたくない‥‥そう決めたから。



「あっ‥‥これ可愛いですね。
 お家に合いそうです。」


手のひらサイズの苔玉と睡蓮木のセット
が可愛くて、思わず立ち止まってしまう


『新名の部屋には合わないんじゃ
 ないか?』


えっ?


あ‥‥‥どうしよう‥‥‥。


酒向さんのお家を勝手に想像していた
ことに、気まずさからゆっくり目を逸らすものの、恥ずかしくて熱くなる


たった2回お邪魔しただけで、人様の
家のインテリアを考えるなんて、
どう考えても図々しい‥‥‥


「わ、私‥向こうを見て来ます!」


顔をパタパタと仰ぎながら、
生花コーナーに向かって逃げるように
その場を去る。


紗英という私に会えて良かったと
抱き締めてくれだからといって、
酒向さんの将来に残る物を選ぶなんて
絶対にダメだ‥‥。


時間を共に過ごすとは決めたけど、
物というのは、残された人にとって、
いい思い出にならないものだってある。


さっきは危なかった‥‥
気をつけないといけないな‥‥



生花コーナーで鮮やかなガーベラを
数本選んでいると、横に立つ酒向さんの
手にトレーに乗った先程の苔玉があり
目を見開いた


「さ、酒向さん‥‥それ‥どうして?」


苔玉を見た後、血の気が引くように
今度は青ざめてしまう



『植物って育てたことないけど、
 お店の人が育て方を教えてくれたから
 やってみようかなって。
 縁側に置いたらどうかな?』


酒向さん‥‥


絶対気付いてるはずなのに、
敢えて言わないのは優しい人だから‥‥


こんな時まで気を使わせてしまうなんて
申し訳ないけど、その優しさに笑顔で
頷くと、酒向さんも笑ってくれた。