遣らずの雨 上

オーブンの中身を座り込んで眺めて
いる私の横に同じように酒向さんも
座ると、不意に近づいてきたと思ったら
軽くキスを唇に落とされた


「‥‥‥」


綺麗な顔でフッと笑う酒向さんに、
驚きの顔しか出来ない私はそのまま
床に尻餅を着いてしまう。


『‥君といると学生の戻ったように
 過ごしたくなるよ。』


「‥わ‥私は‥‥15歳まで病院で
 過ごしたので‥よく分からなくて‥。
 反応が良くなくてもその‥‥
 ‥‥嬉しいと思って‥ます‥‥。」


『‥‥それなら安心だな。』


グイっと両腕を引かれて腕の中に
閉じ込められると優しく背中に
回された手に恥ずかしいと思い
ながらも身を任せてそっとその胸に
もたれた。


1人きりの生活と誰かがいる生活が
こんなにも違うものなんだ‥‥


くすぐったいのに心臓は煩いし、
恥ずかしいのに居心地が良くて、
この先を知ってしまったら、
離れる日が来るのがきっととても
ツラいものになるはず。


それでも、残される方がツラいのは
分かっているからこそ、共に過ごせる
時間をかけてちゃんと向き合いたい


『ずっとこうしてたいけど、焼けた
 みたいだから食べようか。』

 
「‥はい、お腹空きました。」


『新名は食べることが好きだから、
 沢山食べさせてもっともっと
 太らせないとね、軽すぎるから。』


軽いかなぁ‥‥‥。


優子や成瀬さん達の方がスラットしてて
細いし、私は背が小さい分そう思う
だけで沢山食べるから普通より重いと
思うけど‥‥


酒向さんのように180センチ以上の
しっかりとした体格の人からしたら、
女性は軽く感じるのだろうか。



「わ‥‥可愛い‥‥この形のキッシュは
 初めてです。」


型から外すとまるでカップケーキのような形の小さなキッシュで食べるのが
勿体無いほど可愛いと思えた


嬉しい‥‥またこれでレシピが増えた。


酒向さんの彼女さんはもう
会えないけれど、この味を大切に
してきた彼もスゴイと思うし一途さが
伝わってくる


例え1番になることが出来なくても、
目の前にいる私のことを大切にして
くれていることはとても伝わるから、
すぐには同じ熱量で返せないけれど
私なりのペースで寄り添いたい


お昼から酒向さんが私のお気に入りの
お花屋さんに行きたいと言って下さり、
車に乗り栄にある大きなグリーンショップにやって来た。