遣らずの雨 上

『こっちに来てから畳生活だから、
 堅苦しい服よりもこの方がラクで、
 いつの間にか定着したんだよ。
 畳って肌に触れると気持ちいい
 からね。』


「‥‥‥ッ‥‥お‥お似合いです。」


『フッ‥‥ありがとう。』


隣に同じように座りミネラルウォーターを飲む酒向さんを直視できずに
俯きながらアイスの蓋を開けた。


でも‥‥このお家だと、確かに
酒向さんの格好の方がリラックス
出来そうだ‥‥‥。


昨日までは、高級マンションが
似合いそうなんてイメージがついて
居たけれど、この姿を見てしまったら、
これ以上はないほどにしっくりきて
しまった。



『眠る前に映画でも見ないか?
 寝室のスクリーンで見れるから。』


えっ?


「寝室‥‥酒向さんのですか?」


『ああ、一緒に眠るだろう?』


ドクン


歯磨きを終えた後、洗面所まで
迎えにきた酒向さんが壁にもたれた
まま真顔で私を見つめて来た。


和室が他にもあったから、
てっきりそこにお布団をひいて
眠るものだと思っていたとは
言えなくなる‥‥


どうしよう‥‥急に緊張して手足が
冷えていくようだ‥‥


『心配しなくても今日はまだ
 抱かないよ。ただ一緒に君と
 眠りたいだけ‥‥ほら、おいで。』


「‥‥‥はい‥」


見透かされた気がしたけれど、
抱くという言葉選びがダイレクトに
伝わり恥ずかしさで顔が熱くなった


『どうぞ。
 クーラー微弱でかけるけど、
 寒かったら調節するからね。』


心配するなと言われても、人生で
初めて異性の部屋に来て、ベッドを
共にする私には、どうしていいか
全く分からずなかなかその場から
動けないでいた。


『新名‥‥手を貸してごらん?』


「手‥ですか?‥‥ウワッ!!


よく分からないまま両手を前に出すと、
そのまま酒向さんに思いっきり
引っ張られ、ベッドの上にいた彼の
胸に飛び込んでしまった。


「酒向さん‥‥何して‥‥」


『緊張してるからほぐしただけ‥。
 今日は新名が楽しかったって
 思う1日にしたいから、笑って
 くれると嬉しいな‥』


私を見つめて楽しそうに笑うと、
私をベッドに残したままプロジェクター
の準備を始める酒向さんを眺めていた


こんな時まで気を遣わせてしまったことに反省をすると、大人しくそこにもたれ
させて頂いた。