遣らずの雨 上

『新名さんも?』


「えっ?」


立ち止まった主任に私も足を止めて
見上げると、スッと差し出された右手に
視線を落とす


『最初の友達は新名さんがいい。』


ドクン


こんなに歳も離れた異性からの
友達申請に、きっと見上げている顔が
間抜けになっているだろう


今日出会ったばかりの直属の上司が
友達?


それって普通のことなのだろうか?


「えっと‥‥‥う、嬉しいですけど、
 私と友達になっても全く楽しく
 ないと思いますよ?」


『フッ‥‥楽しいか楽しくないかは
 俺が決めることだ。』


それはそうなんだけど‥‥‥
本当に私でいいのだろうか‥‥。


よく分からなかったけど、
遠慮がちに差し出した右手を軽く
握られると小さく笑った主任に何故か
私も小さく笑みが溢れた


ガチャ


ふぅ‥‥なんかどっと疲れた‥‥


マンションの下まで本当に送って
貰うと、携帯番号とメールを交換し、
主任は帰って行った。


私が残業してなくて、成瀬さんだったら
成瀬さんが友達1号だったのかな‥‥


冴えない私を選んだ理由は今でも全く
分からないけれど、さっきまで
握手していた右手が少しだけ
くすぐったくもあった


友達なら‥‥いいか‥‥‥‥。


私には幸せになる権利もないし、
誰かに恋をする資格もない。


友達なら許されるよね‥‥



紗英‥‥‥