続々とみんなが帰る姿をガラス越しに
見送りながらも、答えるまで帰れない
かと思うと憂鬱で仕方ない


「‥‥避けてるように感じたなら
 すみません。そんなつもりは全く
 なかったんです。ただ‥‥‥」


『ただ?』


「その‥‥‥宮川さんとお付き合い
 されてるのに、あまり個人的に
 関わらない方がいいかなって‥‥
 ッ‥‥ただそれだけです。」


プライベートな事を、部下から指摘なんてされたくないはずだし、関係ない
事だとは思うけど、先日のキスの
こととかがあったから、ハッキリ
させておきたかったのかもしれない


この気持ちはもう消せないけれど、
私からアクションする事はないから、
このまま普通に働ければ私には十分な
人生になる。


私なんかに向けられるその優しさを
別の人へ向けるべきだと思うし‥‥‥



『‥前に新名に彼女は居ないと伝えたと
 思うけど‥何がどうしてそんな話に
 なってる?』


「えっ?‥‥‥だってそう聞いて‥」


『聞いたって何を‥‥』


「‥‥‥ッ‥‥か‥帰ります。」


ガタッ


至近距離で真っ直ぐ見つめて来る瞳に
耐えられなくなり勢いよく席を立つと
会議室の扉に手をかけた。


もう何が本当で嘘なのか分からない‥‥


ただ、一つ願うのは、私の閉じ込めた
気持ちを引き出さないで欲しい‥‥



急いで自分のデスクから鞄を取ると、
エレベーターホールに向かい、
振り返らないまま乗ると、自分の
今の顔を見られたくなくて俯いた


こんな苦しい思いをするなら
こんな気持ちなんて知らないままの方が
ずっと良かった‥‥。


好きな人と手を繋いで歩くという夢も
叶えられたから、これ以上望まない
はずなのに、どうしたって頭の中は
酒向さんでいっぱいなんだって
気付かされる。


オフィスの外に出ると、ポツポツと
雨が降り始め、走って駅まで向かい
地下鉄に乗り込んだ。


‥‥‥‥寒い


冷えた体に車内のエアコンが直に
届き、ハンカチで拭くものの
追いつかないほど濡れてしまっている


仕方ない‥‥‥
帰ったらすぐにお風呂に入ればいいや。


駅まで着いて、雨の中を1人
早歩きで進み家路に向かう途中
【むらせ】で傘を借りようか
迷ったけれど、こんな気分のまま
千代さん達に会う気になれず、
そのまま素通りすると、目の前から
歩いて来る人に固まった。


もう‥‥なんで‥‥‥逃げても
追いかけて来るんだろう‥‥