遣らずの雨 上

そんな私が選ぶ特別な1日‥‥‥‥


それは‥‥‥‥


瞳を閉じて1番に思い浮かんだ光景は、
ほかの人からしたら日常かもしれない
景色に違いないが、私には叶えられない
夢でもあるから、多分それが今の
私には特別なのだと思う‥‥


ゆっくりと瞳を開けたその先に見える
優しい笑顔と温かい眼差し。


今日この時、この場が私には既に
特別になっている。


「ありがとうございます。
 せっかくなのでそうします。」


店長さんと話しながら、今の自分が
着たいと思う服を選ぶと、フィッテング
ルームに案内され、緊張しながらも
選んだものを身に纏ってみた。


自分でも見たことのない鏡の中の
自分がまだ好きにはなれないし、
見慣れなさすぎて恥ずかしい。


どう思うだろう‥‥‥。
似合わないって思われるかな‥‥。
以外だなって笑われる?


こんなに不安になりながら服なんて
買ったことが無さすぎて、何度も
おかしくないか鏡を見てしまう。


‥‥これが顧客の立場の気持ちなんだ。


静かに重たいカーテンを開けて
フィッテングルームから出ると、
目の前の鏡に映った酒向さんと
鏡越しに目が合ってしまった。


「‥‥‥」


『新名にとっての特別な1日に
 着たい服を着てみてどう?』


コツコツと歩いて来る足音よりも
私の心臓の音が速さを増す。


『フッ‥‥そういう新名が
 見てみたかった。
 とても良く似合ってるよ‥‥。』


もう‥‥お世辞でも別にいいや。


自分が見せたいと思った人に、
そう言ってもらえたことが1番な
特別で、勇気を出して選んでよかったと
思える瞬間だと思えたから。


ノースリーブのワンピースは、
袖がないものの、大きなセーラーの
襟の部分がシースルーになっていて、
カバー出来るし、胸元のシースルー
部分も襟が重なっていて見えづらい。


ウエストが緩く絞られている為、
ストレートラインも子供っぽく
なり過ぎないデザインだからこそ、
相談して挑戦してみたのだ。


「‥‥こんなの‥初めて着ました。
 今日が私にとって一番特別な
 1日です‥‥本当に‥‥」


真後ろに立つ酒向さんの方に向き直り、
上を見上げてそう伝えると、ゆっくりと
近づいて来た綺麗な顔に驚いて
目を瞑った。



『‥‥‥今日はそれを着て一緒に
 食事に行きませんか?』


ドクン



耳元で囁かれる甘い言葉と脳に響く
低い声に、体中が火照るように熱くなり
私の反応を見て離れると、フッと
小さく笑った。