遣らずの雨 上

「‥‥も、もういいですから
 普通でお願いします‥‥。」


慣れた酒向さんからしたら、
それこそあんな事で何を恥ずかしがって
と呆れていると思うけど、上司が
部下を励ますのにあれはやっぱり
どう考えてもおかしい‥‥


まさか今までもああして励まして来た
としたら、酒向さんも相良さんタイプになってしまう。


「元気は出ましたけど、今後
 あんな事は好きな人にだけに
 されないと勘違いされますよ?」


酒向さんのような素敵な人に
あんなことをされたら、嫌がる人は
いないかもしれないけど、やっぱり
私にとってはお互いの気持ちが同じ
人とするものだと思ってたから、
口ではないにしろお勧めしない。


『勘違い‥‥。
 フッ‥‥そうだな、気をつけるよ』


「はい、そうされてください。」


こんな顔面偏差値が高い人にされたら、
私だって勘違いするところだった。



私と酒向さんがそういう関係になる
なんて事は夢のまた夢で、現実の世界
では叶うことのない夢だから、このまま
夢だったと思いながら過ごしたい。



顔をパタパタと手で仰ぐと、横から
クスクスと笑い声が聞こえて来た
けれど、落ち着きたくてずっと窓の外を
見ていた。



「‥あの‥‥宮川さんは路面店に
 まだいらっしゃるんですか?」


会いたくないと言えば会いたくない
けれど、月曜日からも顔を合わせる
のだからそうも言ってられない。


『どうだろう‥‥新名のことを聞いて
 すぐにお店を出て来てしまったから
 分からない。』


「えっ!?置いて来たんですか?」


あんなプライドが高そうな人を、
店に一人で残して来るなんて、尚更
どう顔を合わせたらいいのか分からなく
なる。


『心配いらないよ。何かあったら
 守るから。』


トクン


信号待ちした途端に伸びて来た手が、
私の頬をそっと撫でると、綺麗な顔で
優しく笑った。


守る‥‥‥‥ってどう捉えたらいいか
分からないけど、紗英のこともあれ以来
聞いてこないし、誰にも言わずに
いてくれている。


いつかは話さないといけないとは
思っているけど、その時はきっと
酒向さんから離れる決意が出来た時
だとも思う。


守られるばかりではなくて、
私に強さがあったら、誰かを守れる
人になれるのにな‥‥‥


『今度はちゃんと中でも待ってて。
 車を置いて来るから。』


「はい、ありがとうございます。」