遣らずの雨 上

高校生の時からバイトでお世話になり、
大学時代はここの賄いにかなり助けられ
た為、今でも居心地が良くて通ってる。


『さっちゃんお料理はどうする?』


「あっ‥‥私はお任せでいいけど、
 主任は好き嫌いありますか?」


上着のジャケットを脱ぎ、ワイシャツ
姿の主任がネクタイを緩める姿に、
男女問わず見惚れてしまっている


ここがBARのラウンジならまだしも、
定食屋さんでここまで色気を出されても
みんなどうしていいか分からない。


『新名さんのオススメでいいよ。』


「分かりました。千代さん、いつものと
 何かオススメあったらお願い。』


温かいお茶とおしぼりを受け取ると、
主任にそっと差し出した。


「あの‥‥地元の人は他にもいるので、
 もっと色々教えて貰えると思います。
 私はあんまり小洒落た店より、
 落ち着く場所の方が好きなので。」


それこそ成瀬さんの方が、主任の為なら
夜更かししてでも下調べして最高の
ツアーでも開催してくれるはず。


偶々、残業してたのが私だったけど、
みんな良い人だから安心してほしい。



『新名さんだから頼んだんだよ。
 資料作りも丁寧だし、人の仕事まで
 文句言わずにこなすような人だ。
 それに少し話してみたかったしね。』


えっ?


『お待ちどうさま。
 明太子の出汁巻きと、漬けマグロの
 長芋和え、それとカブとアスパラの
 塩麹炒めよ。主任さんにはご飯と
 具沢山の豚汁。
 さっちゃんはお味噌汁だけでいい?』


「うん、私はお米はいいや。」


『あとはサービスで生姜焼き。』


料理をテーブルに並べると、
いい香りが鼻をかすめて食欲をそそる


『美味しそうだ。』


「味は保証しますよ。長年のファン
 なので。‥‥いただきます。」


『フッ‥‥いただきます。』


主任と手を合わせると、口に合うかが
気になり、出汁巻を食べる様子を
なんとなく見てしまった。


『‥‥美味い。
 さすが長年のファンだけあるな。』


綺麗な食べ方をした主任が綺麗な顔で
笑うものだから、不覚にもドキッと
してしまう


向かい合わせになんてするんじゃ
なかったな‥‥。目の前に座られると
落ち着いて食べられやしない‥。


でも美味しそうに食べてくれて
良かった‥‥。
名古屋には美味しいご飯が他にも
数えきれないほどあるから、主任にも
色々食べて貰えると嬉しい。


「千代さんまた来るね。
 今日も美味しかった。」


『僕もまた来ます。
 本当に美味しかったです。』


えっ?