遣らずの雨 上

先にお店の中に入っていく宮川さんの
後を追いかけれず、額にまた汗が
うっすら滲んでいく


どうしよう‥‥‥
私‥‥このままここに居たら、きっと
酒向さんに迷惑をかけてしまう‥‥


ここまで来たのにも関わらず、
足が勝手に店舗から離れ、逃げるように
その場を立ち去り地下鉄に駆け込んだ


浮かれていたのかな‥‥‥。
どんな自分でも、地味でも冴えなくても
酒向さんだけは大丈夫だって‥‥。


スマホのバイブ音が何度も鳴り
酒向さんの名前が記されたディスプレイに怖くて電源を落とす


怒ってると思う‥‥‥。
休日にわざわざ時間を割いてまで、
部下の仕事に付き添ってくれたのに、
放棄して逃げ出したんだから‥‥



何が怖くて体が震えているのかも
分からないし、喉がカラカラに
乾き始め、ミネラルウォーターを
一気に流し込んだ


帰ったら酒向さんに連絡をしよう‥‥


暑い日差しを受けながら帰り道を
歩いて行き、家に着く頃には
今日何度目になるか分からないほど
額に汗が滲んでいた


階段を登り切ると、体力がない私は
情け無いが息切れまでしてしまう


みんな暑い中外回りをしてるのに、
その人達のツラさはこんなものじゃない
だろうな‥‥‥。


『おかえり』


「ツッ!!‥‥酒向さ‥」


気まずさから背を向けて走り始めた
ものの、すぐに手首を掴まれてしまい
逃げ場を失う


あれからすぐにここに来たの?
電話にも出ないし、ここにいれば
必ず帰って来るからと思って?



「‥‥‥暑いので家の中で話します。
 もう逃げませんから‥‥。」


掴まれていた手首が離されると、
酒向さんの顔が見れないまま
部屋の前まで歩き、鍵を開けた。


「すぐクーラーを付けますね。
 お茶がいいですか?それとも
 アイスコーヒー‥あとハーブティーも
 アイスで」

『新名』

ドクン


家の中の熱気を一度出したくて、
窓をカラカラと開けていると、
後ろから私を抱き締める熱を感じ、
堪えていた涙が瞳に一気に溢れ始める。


『大丈夫‥‥怒ってないし、
 心配だからここに来た‥‥‥。
 何もないのに黙って帰るような
 子じゃないだろう?』


鎖骨辺りに置かれた酒向さんの腕に
雫が何度もポタポタと流れ落ち、
開けっぱなしにしていた窓を酒向さんが
閉めていく。


いっそ、思いっきり怒ってくれたら
謝れるのに、こんな時まで優しさで
私を甘やかせては駄目だ‥‥‥。