遣らずの雨 上

「行きます。煮詰まった時はまずは
 現場に行かないとですね。」


『あら、面白そうね。
 私も行ってもいいかしら?』


えっ!?


レース編みされた黒のノースリーブの
カットソーに膝丈のタイトなスカート
を履きこなして立つ宮川さんが、
私のデスクに手を置き私達を覗き込む
ように視線を向けてきた


『宮川はこういうのは得意だから
 今更だろう?』


『ええ、得意よ?こんな文面くらい
 すぐに終わらせれるほどにね?』


ドクン


なんだろう‥‥。
遠回しならまだしも、直接的に
ダメ出しをされて返す言葉もない。


3年目の私と10年以上のキャリアを
持つ宮川さんを比べるなんてことは
したくはないけど、その言い方は
落ち込んでしまいそうになる


『新名さん、この機会にこっちの店舗も
 見ておきたいの。ご一緒したら
 ご迷惑かしら?』


「えっ?‥‥私には断る権利も何も
 ありませんので‥‥」


モデルさんのような小さな顔のパーツ
がお人形さんのように整っていて、
口角が上がるのを見て何故か寒気が
体に走った


『宮川、あくまでも
 新名との市場調査だ。彼女の邪魔に
 なるなら休日と言えど別行動を
 取るから了承してくれ。
 それじゃあ新名、後で時間と場所を
 連絡する。仕事中に悪かった。』


「いえ‥‥こちらこそありがとう
 ございます。せっかくの機会なので
 勉強させていただきます。」


立ち上がった酒向さんが笑顔で私を
見下ろすと、自分の席に戻って行って
しまった。


『随分と部下に熱心なのね?
 あなたには特別ってことかしら‥』


「そういうのじゃないですよ。
 酒向さんは全員に厳しくも優しい
 方なので‥‥。」


『そうね‥‥酒向君は優しいわよ?
 仕事中もオフでもね‥‥。
 ふふ‥明日楽しみだわ。』


分かった‥‥‥。
この人の何が怖いのか‥‥。


人をジッと凝視する癖はあるのは
1日見てて分かったけれど、その目が
笑ってないんだ。


成瀬さんのように、感情剥き出しで
怒ってるのが分かりやすかったり、
嘘をつく時など可愛こぶるのとは
また違う。


笑ってるのに、全く楽しそうでは
ないということ。


断ればよかったとも思いつつも、
酒向さんのアドバイスは本当に
勉強になるから、市場調査には
どうしても行きたかった‥‥


明日何もないと良いけれど‥‥‥。