一度言葉を詰まらせ深呼吸をする
酒向さんが、私の方に向き直る
『紗英』
ドクン
夜風が吹き、空気も多いこの場所で、
一瞬にして酸素が奪われる感覚に
落ち着いて話を聞く意思が崩れそうに
なっていく
『新名‥‥手を貸して‥大丈夫。
話を聞いてくれるだけでいい。』
小刻みに震えていた私の肩を抱き寄せ、
自分にもたれ掛けさせると、
反対の手でわたしの手を握ってくれた
酒向さんがどうしてその名前を
知っているのか分からないけれど、
今は何も考えられない‥‥‥
『君が倒れた時、俺はお父さんに
電話をかけただろう?
その時は病院に運ぶことが優先で
特に何も思わなかったんだ。
新名のお父さんは医者なんだなって
ことくらいで。
ただ、病室に駆けつけた君のお父さん
が呼んだ名前が紗英だった。』
あの時はまだ、名前を変えた事を
お父さんは知らなかったんだ‥‥
だから娘が運ばれてきたともなれば、
紗英と呼ぶのは当然で、隠し用も
出来ない
『最初は呼び間違えか、新名に
姉妹でもいるのかとも思えたけど、
何度も紗英と呼ばれていたから、
挨拶をさせていただく時に、
少しお話をさせていただいたんだ。』
酒向さんが‥お父さんと?
『皐月さんの上司という挨拶をした後、
お父さんが君の名前のことを知り
とても驚いていた。
家族やその人にはさ、誰にも
言いたくないことや、言えない事が
多くあると思うんだ‥‥。
だからそれ以上は聞いてないよ。
新名がいつか話してくれるなら
きちんと話を聞こうと思ってるから。
話を聞いてくれてありがとう。
旅行中なのに悪かった‥‥。』
こんな時まで私に優しい事が苦しくも
あるのに、それを超えるくらい別の
感情が勝り涙が出そうになる
きっと今‥勇気を出して全て話したと
しても、きっとこの手は離さず酒向さん
は聞いてくれる人だと思う
わたしの本当の名前を知っても、
詮索することもせず、今もそれ以上
聞かないでいてくれる。
『君のお父さんは、娘のことを
よく分かっていてね、我儘を
言わずに我慢して生きてきたから
思い切り自由に生きて欲しいと
言っていたよ‥‥。
一度きりの人生だから、自分の為に
生きて欲しいと。』
お父さん‥‥‥
私ね、今‥‥好きな人に選んでもらった
浴衣を着てるんだよ。
酒向さんが、私の方に向き直る
『紗英』
ドクン
夜風が吹き、空気も多いこの場所で、
一瞬にして酸素が奪われる感覚に
落ち着いて話を聞く意思が崩れそうに
なっていく
『新名‥‥手を貸して‥大丈夫。
話を聞いてくれるだけでいい。』
小刻みに震えていた私の肩を抱き寄せ、
自分にもたれ掛けさせると、
反対の手でわたしの手を握ってくれた
酒向さんがどうしてその名前を
知っているのか分からないけれど、
今は何も考えられない‥‥‥
『君が倒れた時、俺はお父さんに
電話をかけただろう?
その時は病院に運ぶことが優先で
特に何も思わなかったんだ。
新名のお父さんは医者なんだなって
ことくらいで。
ただ、病室に駆けつけた君のお父さん
が呼んだ名前が紗英だった。』
あの時はまだ、名前を変えた事を
お父さんは知らなかったんだ‥‥
だから娘が運ばれてきたともなれば、
紗英と呼ぶのは当然で、隠し用も
出来ない
『最初は呼び間違えか、新名に
姉妹でもいるのかとも思えたけど、
何度も紗英と呼ばれていたから、
挨拶をさせていただく時に、
少しお話をさせていただいたんだ。』
酒向さんが‥お父さんと?
『皐月さんの上司という挨拶をした後、
お父さんが君の名前のことを知り
とても驚いていた。
家族やその人にはさ、誰にも
言いたくないことや、言えない事が
多くあると思うんだ‥‥。
だからそれ以上は聞いてないよ。
新名がいつか話してくれるなら
きちんと話を聞こうと思ってるから。
話を聞いてくれてありがとう。
旅行中なのに悪かった‥‥。』
こんな時まで私に優しい事が苦しくも
あるのに、それを超えるくらい別の
感情が勝り涙が出そうになる
きっと今‥勇気を出して全て話したと
しても、きっとこの手は離さず酒向さん
は聞いてくれる人だと思う
わたしの本当の名前を知っても、
詮索することもせず、今もそれ以上
聞かないでいてくれる。
『君のお父さんは、娘のことを
よく分かっていてね、我儘を
言わずに我慢して生きてきたから
思い切り自由に生きて欲しいと
言っていたよ‥‥。
一度きりの人生だから、自分の為に
生きて欲しいと。』
お父さん‥‥‥
私ね、今‥‥好きな人に選んでもらった
浴衣を着てるんだよ。



