遣らずの雨 上

『良かったらこちらの下駄を
 履いて行ってくださいね。』


「えっ?ありがとうございます。」


良かった‥‥。
流石にスニーカーだと合わないと
思ってたし、下駄なんて履いたことないから嬉しい。


冷えないようにと若草色の半纏まで
貸していただき外に出ると、
気持ちのいい風が心地よくて食後の
運動にも良さそうだ


中庭の庭園を座って眺めたり、
ライトアップされた池を見ながら、
中庭をグルリと歩くと足湯を
見つけたので嬉しくなる


温泉はもう難しそうだからせめて
足だけでも‥‥


「ツッ!!」


屋根がついた場所に行こうとしたら、
履き慣れていない下駄で躓き、前のめり
に転びそうになったのに、手首と腰を
引き寄せられそのまま何かにぶつかった


『本当に目が離せない‥‥。
 大丈夫か?』


薄暗く、周りにも人がいない場所で
耳に届く心臓の音が聞こえ、咄嗟に
体を突き放した


「すみません‥ありがとうございます。
 助かりました。酒向さんも足湯に
 入りに見えたんですか?」


『ああ、お酒はそこまで強くない
 からね。村岡達にあとは任せてきた』


佐藤さんや優子も強いし、
酔っていた成瀬さんが酒向さんを
探しに来ないかは分からないけど、
温泉に入りに行く人達も居たみたいだ。


転ばないようにゆっくりと足湯に
向かうと、浴衣の裾を捲りそこに
足を入れてみた


これ‥‥‥気持ちいい‥‥


膝下しか入ってないけれど、冷え性の
私は毎日入りたいと思えてしまうほど
で、大好きな本を読みながらなら尚更
癒されそうだと思う


『新名‥‥これから話す事を
 落ち着いて聞いて欲しいんだけど、
 出来そう?』


「‥‥‥話す内容にもよりますが、
 ‥‥何かあったんですか?」


いつになく真面目な顔をした酒向さんが
私の方に真っ直ぐ視線を向けて来る。


『ん‥ここだと他の人も多くいるから、
 少し散歩しないか?』


確かにここには私達だけではないし、
成瀬さん達が来ることだってあるけど、
そんなに深刻な話なのかな‥‥


小さく頷き、足湯から上がると、
旅館の側から少し歩いた所にある並木道
を酒向さんとゆっくり歩いていた


『あそこに座ろう。寒くない?』


「はい、平気です。」


小さなベンチに腰掛けると、
今になって落ち着いて話が聞けるかが
不安になってきたのか手が冷たくなる


『この話をするべきなのか、ずっと
 悩んではいたんだ‥‥。でも、
 友達関係を解消したいと言ったことと
 なにか繋がりがあるなら、まずは話を
 聞きたいと思った。』