遣らずの雨 上

「滅多にないことなんです。
 なのにご心配をおかけして
 ほんとうにすみません。」


元気だから大丈夫という意味も込めて
笑顔で頭を下げると、酒向さんも
ホッとするように笑ってくれた


『荷物はそれだけ?』
 貸して?乗せるから。』


「あ‥‥ありがとうございます。」


本当なら断りたいところだが、
部内旅行で気まずくなりたくないし、
これ以上雰囲気を悪くしたくもない


助手席のドアを開けてもらい、
乗るのを躊躇っていると、乗るまで
そこから動かなさそうで仕方なく
乗らせて頂いた。



『なんかいつもと雰囲気が違うね。』


あなたがそれを言う?
きっと会社に着いたら成瀬さん達
気絶するんじゃないかな‥‥。


「いつも以上にラフなだけですよ。」


スリムパンツにスニーカー。
トップスも襟の詰まったラウンドネック
のカットソーのみでボディバッグを
肩からかけている


『そう?よく似合ってるよ。でも俺は
 制作部で見た服も似合ってたと
 思うよ?』


「そ、そうですか?嬉しいですけど、
 ああいうのは私はちょっと‥‥」


心臓がやけに煩く手に余計な力が
入ってしまう。


やっぱり酒向さんもそう言う服を着た
女性の方が素敵だと思うよね‥‥


亡くなられた恋人も、きっとお似合いの
素敵な人だったに違いない。



「乗せて頂いてありがとうございます。
 先に行ってください。私は外から
 回って行きますから。」


会社に着き後部座席から私の荷物を
取り出してくれ受け取ると、
歩く酒向さんと距離を取り
エレベーターに乗るのを辞めた。


『どうして?』


どうしても何も成瀬さん達に見られたら
それこそ旅行中の雰囲気が悪くなる


来たかった旅行ではないけれど、
せっかく行くのだから楽しかったと
最後まで思いたい


「コンビニに寄りたいだけです。
 送れないように行きますから。
 ありがとうございました。」


頭を下げてから
返事も聞かず背を向けて歩き
外に出ると、緊張から解放されて
呼吸がスーっとラクになっていく


このまま行ったらハチ合わせるから
本当にコンビニに行くしかないか‥。


集合時間まではまだ全然余裕があった為
、近くのコンビニに行きペットボトルの
お茶を購入することにした



『新名ちゃん何してんの?』


えっ?


「相良さん!‥‥ビックリしました。
 私はこれから部内旅行ですけど、
 相良さんこそスーツですし
 まさかお仕事ですか?」


コンビニから出て来たところで、
いつもと変わらない装いの相良さんと
偶然出会い驚く



カフェであんなことがあったけど、気を使わせないようにしてくれているのか、次の日からも今までと同じで普通に
接してくれている