遣らずの雨 上

『皐月、お疲れ様。残業?』


「うーん、なんか捗らなくて‥。
 あと少しだけやったら帰るよ。
 月の残業時間決まってるしね‥。」


首をコキコキ鳴らすと、優子に肩を
軽く揉まれ癒しを与えてもらうと
手を振り彼女を見送った。


『新名さんお先。』


「佐藤さんお疲れ様です。」


18時を迎える頃にはフロア内も
静かになり集中出来ると、
仕事がいつも通り捗っていく


こんな感じがこれからもずっと続くとは
思うけど、変わらない状況ならこっちが
早々に慣れるしかないな‥‥


「よし‥‥‥終わった‥」


保存をクリックしてからパソコンの電源
を落とすと、頭の上で手を組みうーんと
伸びをした


『フッ‥‥遅くまでお疲れ様。』


「えっ!?ッ‥さ‥酒向さん!?
 まだいらしたんですね。」


思いっきり素の状態で欠伸までしていた
私は、慌てて体勢を戻す。


集中してたから全然気にしてなかった
けど、辺りを見渡しても主任しか
残っていない


「す、すみません残業してしまって。
 もう帰りますので。」


デスクの下のフックに引っ掛けてある
バックパックを取り出すと、スマホを
手に取り立ち上がった。


うわ‥‥なんか‥改めて目の前にすると
本当に背が高い人だな‥‥。
180センチは余裕で超えてそう‥。


スニーカースタイルの私がヒールを
履いたとしても20センチは差ができそうなほどのスタイルに見惚れる人の
気持ちもよくわかる。



『慌てなくていいよ。今日色々見てて
 なんとなくここの流れは掴めたから。
 それより‥‥君は地元の人?』


えっ?


「まぁ‥地元といえば地元ですけど、
 それがどうかしましたか?」


『実は東京から来て間もなくてね‥‥。
 オススメな美味しいお店があれば
 教えて貰えないか?』


私が‥‥主任に!?


いやいや‥‥確かに地元民じゃないと、
色々分からない事も多いけど、
聞く相手が違うのでは?と心の中で
突っ込みたくもなる


歳だって離れてるし、どちらかと
言えば人見知りなどの理由から
人付き合いは最低限にしてきた。


成瀬さんに頼めば、きっと空にも飛ぶ
ほど喜んで案内してくれそうなのに、
ハズレクジで申し訳ないな‥‥。



「あの‥‥行きつけのご飯屋さん
 でしたら、これから
 良ければ一緒に行きますか?」


週に2回は通っている
定食屋さんのご飯を食べないと1週間
が始まらないので、そこくらいなら
私にでも紹介はできるけど‥‥


ハイスペックそうな感じだし、
口に合うかはわからないけど、
美味しいのは確かだから。