遣らずの雨 上

一緒に食べたら楽しい事なんて
行かなくても想像できてしまう。


綺麗な所作で料理を口に運ぶ姿も
目に思い浮かぶし、忘れずに生きてる。


『新名』


ドクン


紙袋を受け取る手が私の手をそのまま
掴むと、まるでそこだけに熱が集中
するように熱くなっていく


ドクン‥ドクン‥ドクン‥ドクン‥


返事もしないといけないし、この手を
傷つけないように振り払わないと
いけないのに、体が固まってしまい
心臓の音だけがどんどん大きくなる
 

人も通らず、街灯の灯りも薄暗い
この場所で、酒向さんとの2人きりの
時間に胸が苦しくなり呼吸が乱れ始めた


『新名?どうした?』


「酒向さ‥ッ‥苦し‥‥」


息がしづらい?
不正脈が出た時は、とにかく落ち着いて
ゆっくり呼吸しないといけないのに‥


『車まで運ぶぞ。』


えっ?


立っているのがやっとの私を抱き抱える
形で持ち上げると、助手席の扉を開けて
そのままそこに座らせてくれた。


薬‥‥‥薬を飲めば‥‥


鞄のジッパーを開けたいのに‥手が
震える‥‥


「く‥‥す‥り‥‥」


『薬?ここに入ってるんだね?
 貸して、俺がやるから。』


目頭に涙が溜まる私を他所に安心させて
くれる笑顔を見せると、鞄の外ポケット
に入っていたクリアケースを私に
見せてくれた



『そこで水を買って来るから少しだけ
 待ってて。』


左手にケースを握らせてくれ、何とか
呼吸をできる範囲でしていると、すぐに
酒向さんが戻って来てくれた。


『これ?』


涙で見にくい視界で見せられた薬に
小さく頷くと、顎に添えられた酒向さん
の指が私の口を開き、そこに薬を入れ
ペットボトルの水を飲ませてくれた


「ゴホッ!!ハァ‥‥ハァ‥」


『ゆっくり飲み込め。大丈夫だから。』


背中をしっかりと抱き抱えられ、その
腕の力強さと酒向さんの香りに安心して
何度も頷く


こんな姿を1番見られたくなかった人に
また見せてしまった‥‥。


しっかりしないと心配させてしまう
からと思い、ご飯もちゃんと作るように
したし、仕事も頑張ってきたのに‥‥。


涙が溢れ流れ落ちる頬を、酒向さんの
長い指が何度も優しく拭ってくれ、
落ち着くまでその腕の中から
抜け出せなかった。