遣らずの雨 上

二の腕辺りを思いっきり掴まれ、
蛍光色のピンクの長い爪が思いっきり
食い込む


『あんたさ‥酒向さんに抱き抱えられて
 介抱してもらってから調子に乗って
 ない?』


「そんな覚えはないですけど、
 自分の仕事すら出来てない人に
 何も言われたくないです。」


いつもなら食い下がる私が立ち向かう
のが気に入らないのか、成瀬さんの
綺麗な顔がこれでもかと歪む


死角になってるエレベーターホールでも
いつ誰が来るかも分からないし、
いい加減掴んでる腕を離して欲しい‥


3年間も仕事を手伝って来たのにも
かかわらず一度もお礼すら言われたことがない相手にこれ以上屈したくない


相手をするのが面倒だからと、今まで
言いなりになって来た私が悪いから
これからが大変なのも分かってる。



『何してるの?』


ドクン


同じフロアの営業部の先輩でもある
相良さんと目が合うと、掴まれていた
手をパッと離される


『なんでもないですぅ‥。
 新名さんがよろけてたので支えて
 ただけですぅ。相良さんはこれから
 外回りですかぁ?』


『ん?ああ‥‥そんなとこ。
 新名ちゃん久しぶり、元気だった?』



はぁ‥‥‥


よりにもよって1番会いたくない人に
もう1人加わってしまったことに
溜め息しか出ない。


典型的な遊び人タイプの相良さんは、
入社当時から何かと絡んできて、
今みたいに声をかけた成瀬さんを
無視して私に声をかけたのが
こうなった原因の発端でもある


酒向さんとは全く違うタイプなのに、
この人はこの人でかなりモテる。


言わば女性ウケと女の扱いに慣れている
のが大きなポイントかもしれない。


「元気ですよ。相良さんも相変わらず
 ですね、失礼します。」


『またまたそんな冷たい態度をとって。
 久しぶりに会えたのに俺悲しいな。』


「‥‥‥」


全くときめかない顔に無表情で
答えると、お辞儀だけして部署に歩き
始める。


はぁ‥‥今日は厄日だろうか‥‥。
成瀬さんの顔すら怖くて振り向けない


私だってなんであの人が絡んでくるのか
分からないんだから仕方ないのに‥‥


「戻りまし‥‥うわっ!!な、なに?」



部署まで後一歩というところで、
もう一度大きな溜め息を吐くと
目の前のデスクに座る主任が私を見て
目を見開いたと同時に後ろからの重みに
前に倒れそうになってしまった


『新名ちゃん、今度一緒にご飯でも
 行こう?連絡待っててね。』


相良さん!?