『また改めて君には仕事を頼むので、
　今日は今やるべき仕事を優先して
　ください。頼まれごとは程々にね。』


「えっ？あ‥分かりました‥‥
　申し訳ありません。」


厳しい表情からニコっと笑われたので
慌てて主任に頭を下げると、
隣のデスクにいる佐藤さんに次は
話しかけていた。


任せたい仕事なんてない気もするけど、
成瀬さんの怒りを買ったことには
間違いないから対応が面倒になりそう。



助けてもらったのとはまた違うけど、
ようやく自分の仕事を始められたので
心の中でお礼を伝えた。


「ふぅ‥‥もうお昼だぁ‥‥」


『新名さん今日は食堂？』


同じチームの佐藤さんに声をかけられ
うーんと伸びをすると、企画を終えた
同期の優子こと山岸　優子（やまぎし
ゆうこ）と目が合い手を振った


「月曜日って休み明けなのか余計に
　お弁当作るの面倒なんですよね‥‥。
　優子と食堂行ってきます。」


入社式で仲良くなった同期の優子とは、
偶然にもマーケティング部も同じで、
それ以来ずっと仲良くして
もらっている。


人付き合いが苦手で、友達が少ない
私なだけに、彼女の存在はとても
大きいし唯一無二の気楽でいられる
相手だ。



『また朝からバトルしてたね。
　成瀬もこれで懲りたんじゃない？』


「だといいけど‥‥」


日替わりランチを2人で食べながらも、
いつもよりも賑わう食堂内の中心に
いる主任を2人で眺める


なんか‥‥すごいや‥‥
まるで芸能人みたいだ‥‥。


33歳と、落ち着いた年齢だけど、
あの顔面偏差値とスタイルは
年齢など無意味にさせてしまう



『皐月のことすっごい見てたよね。
　会議室から見てたけど、蛇に
　睨まれた蛙のようで笑えたよ。』


「ハハッ‥蛇ね‥‥。
　それだとしたらとんでもなく美しい
　蛇かもね。」


蛙なんてまだ可愛いじゃないか‥‥‥
私は蛙にも勝てないよ‥‥。


笑いながらも、心の中では真面目に
そんなことすら考えてしまう


その日の午後になると、主任のデスク
が整い、鵜飼主任が請け負っていた
仕事内容をマーケティングのリーダー
と色々打ち合わせをされていた。


『酒向さぁん、今週末歓迎会をしますが
　ご都合いかがですか？』


うわぁ‥‥成瀬さん懲りないな‥‥。
というかめげてなくて逆に驚く‥‥


私だったら主任にあんなことを面と
向かって言われたら、恥ずかしくて
自分から近づくことはまずしないし、
なんなら落ち込んでると思う。



『ありがとう、大丈夫ですよ。』
　


今日1日みんなの興奮冷めやらず、
部内も外もザワザワして仕事に
集中できなかったから、週頭なのに
残業なんてツイテない


『わぁ。ではとびっきり素敵なお店を
　ご用意しておきますね。』


とびっきり素敵ね‥‥どんな店よ‥。


まずは素敵よりも主任の食の好みでも
聞いてから探したらいいのに。