遣らずの雨 上

距離を置くと決めた矢先、
心配と迷惑をかけてしまった相手の
優しい手を振り払う事など
出来るわけがない‥‥


『早く元気になれ‥‥仕事のことは
 気にしなくて大丈夫だからね。』


主任が病室から帰ると、
我慢していた涙が出てしまう‥‥


友達になってくれた相手に、
1番させてはいけないことをさせて
しまったことが申し訳ない


大切な彼女が亡くなられた理由は
分からないけれど、目の前で倒れ、
病院に運ばせた間の主任の気持ちを
考えると胸が苦しくて堪らない‥‥


「酒向さん‥‥ごめんなさい‥‥」


謝ることしか出来ない無力な自分は、
家からも親からも逃げて、向き合って
くれている人からも逃げている


だって‥‥‥怖い‥‥‥


外に行きたいと願ったばかりに、
叶ったはずの夢は犠牲の上にある。


それを考えると誰かに何かを与えて
もらえばもらうほど、生きてて
良かったのだろうかと思えてしまう


自立してやれてるなんて上辺だけ。
お金を稼いで生活をしてるだけで、
1人じゃ何にもできていない‥‥。



せっかく勤める事が出来た会社だけど、
辞めることも頭に置き、まずは弱った
体を治さないと‥‥


その日は点滴治療を受け、食べれそうな
お粥などから口に入れ、金曜日の日に
定期検診を受けることになった。


『久しぶりだね‥‥』


「お久しぶりです先生‥
 ずっと来なくてすみません‥‥。」



7年ぶりに会う先生は相変わらずで、
私の父と同じく皺が増えたくらいだ。


『本来なら半年に1度は担当医として
 経過は見ておきたいところだが、
 来ないと言う事は元気だったと
 言う事にしておこうか。
 心電図は良しとして精密検査は
 来週結果が出るから必ず外来に
 来なさい。それじゃあそこに寝て
 診察を始めようか。』
 

前開きの入院着のボタンを外すと、
聴診器を当てられ、先生の手が私の
傷口の経過を丁寧に診察し始めた。


『呼吸が辛かったり、胸が苦しい
 事はないかい?』


「はい、大丈夫です。」


『薬は他の病院で貰ってたんだね。
 君さえ良ければまたここに通院
 して欲しい。私の我儘だけど、
 そうしてくれないか?』


家族と距離を置きたくて、市内の別の
病院で薬だけ貰っていた事も、
通院歴で先生にはきっとバレている。


こればかりは仕方ないのだ‥‥。
私は死ぬまで薬を毎日飲み続けないと
いけないから、病院に行かない選択肢は
取れない。