カラカラ

『いらっしゃい‥さっちゃんやない!
 暫く顔見せんかったから心配して
 たんやよ。元気しとったん?』


「千代さん、修さん、こんばんは。」


『おう、久しぶりやな。こっちに
 座りな。』


ああ‥‥ここはいつ来ても本当に
温かい素敵な場所だ‥‥。


実家に帰ることが出来ない私には、
もうこの場所こそが実家だと思う。


カウンターに荷物を置き腰掛けると、
千代さんから温かいほうじ茶が入った
湯呑みを受け取った。


「大きな案件を頑張ってて、
 毎日残業だったからクタクタで
 帰って少しでも寝たくて‥‥。
 やっと来れたから今日はオススメ
 沢山食べさせて欲しいな。」


『任せとき。よう頑張ったなぁ。』


修さんにも褒められて、いい歳なのに
子供のように顔が綻ぶ。


ここに来ると素でいられるのと同時に、
嫌なことを忘れられたり、考えずに
居られる。


カラカラ


『いらっしゃいませ。‥‥あら
 今日は酒向さんも‥こんばんは。』


えっ!?


飲みかけていたお茶が気管支の変な
所に入ったのか思いっきりむせてしまう


「ゴホッゴホッッ!!」


『大丈夫か?』


大丈夫だけど、まさかここで会うなんて
思っても見なくて驚いたのだ


「大丈夫です‥ビックリしました‥。」


相変わらず美しく整った顔立ちは、
店内にいる人さえも魅了してしまい、
入り口付近で食べていた人も、口を
開けたまま主任を眺めている



『何となく今日はここにいるかなと
 思ったんだ。隣いい?』


「えっ?あ、はい、勿論です。」


荷物を反対側に置くと、隣に腰掛けた
主任が私の顔を見てフッと笑った



『酒向さんお茶熱いから気をつけてね。
 さっちゃんが来ない間も酒向さんは
 何度も来てくれていてね。今日も
 お任せでいい?』


そうだったんだ‥‥‥。
そんなこと言わなかったから全然
知らなかったけれど、ここに来てくれて
いたことに顔が緩む


良かった‥‥気に入ってくれたんだ‥



『はい、お任せします。新名さんは
 やっぱり出汁巻き?』


「バレてますよね‥。ここに来ると
 どうしても食べたくなって。
 今日はご褒美みたいなものです。」


『そうだな。本当にいい企画案だったし
 頑張ったな‥‥お疲れ様。』


ドキッ


そんな笑顔で頭なんか撫でられたら、
意識していなくても顔が熱くなる


部下に対して特別に意味ない事だと
分かってはいても、主任の見た目には
私も反応してしまうから仕方ない