遣らずの雨 上

一人暮らしで恋人もいない
私は基本予定はないに等しい


どちらかといえば、1人でカフェで
本を読んだり、家で植物の世話をする
時間の方が好きだ


「私は暇ですよ。佐藤さんこそ
　恋人と予定ある日はちゃんとオフも
　優先してくださいね。」


『うん、ありがとう。
　私達2人でいいWEBデザインにして
　頑張ろうね。』


まだ未完成だからこそ、大変なのは
承知の上だけど、大先輩の佐藤さんが
いるだけで心強い


私のパートナーが成瀬さんじゃなくて
心から良かったと思うよ。


日々こなさないといけない仕事を
やりながら、名古屋と栄の店舗の
ここ数年の売り上げや売れ筋を
データ化し、資料室にも足を運んだ


HPを見る人ってどんな人だろう‥‥


私は行きたい店が入っている百貨店の
営業時間が知りたいから公式サイトを
閲覧することはあるけど、ショップの
中まで見る人の気持ちってどんな時に
そうしたいのだろうか。


『ねぇ、ちょっといい？』


「‥‥‥‥なんですか？」


今いいところまで思いついていたのに、
聞きたくない声に我に帰り見上げると、
今日も完璧なメイクを施した成瀬さんに
うんざりする


『今日、酒向主任の歓迎会なんだけど、
　私は幹事で忙しいから先に行かないと
　いけないわけ。だからこれ‥‥
　お願いしてもいいよね？』


はぁ？


1週間前から歓迎会って分かってるなら
時間調整して出来るでしょ？


キャンペーンやセールがない今の時期
なんてどちらかと言えばゆったりして
るのに、この人は仕事をしてるのかと
疑問に思う


「同じ集計の先輩に頼んだら
　いいんじゃないですか？私はチームが
　違うし忙しいから。」


『なっ！同期でしょ！？』


こんな時だけ同期面？
大して仲良くもなければ、ストレス
ばかり与えてくるのに？


『じゃあ新名さんが代わりに幹事を
　やってくれるなら出来るわ。』


「嫌ですよ、そういうのは苦手だし。」


『じゃあ助けてくれないと、主任の
　歓迎会が開催出来ないわよ？
　マーケティング全体にも迷惑が
　かかってもいいなら』


「あーもういいです、やりますよ。」


この人に正論なんて通じるわけないのに
これ以上話しても無駄だった。


幸いファイル一つだけだから、急げば
そんなに時間がかかるものじゃない


『フン‥最初からそう言いなさいよ。
　じゃ、よろしく〜』