遣らずの雨 上

『分かりました。診断書もありますし、
 上にこのまま通して受理となると
 思います。何かありましたら連絡
 しますね。』


「よろしくお願いします‥。」


お父さんにも病院を訪ねた時に
相談をして、環境を変えて本当に
やりたい事に向き合いたいと伝えた。


酒向さんとのことは、言わずとも
お父さんの事だから分かっていたのか、
連絡が来ても何も言わないで欲しいと
言うことだけお願いしたのだ。


自分のやるべき仕事を纏めながら、
お世話になった人へ手紙を残し
引っ越しの準備を急いで決めた為、
疲労困憊だったけど、
この気持ちのまま去りたかったから
急足で事を進めた。


4日間で荷物を纏める事なんて
後にも先にももう2度としたくない‥


「はぁ‥‥荷物多すぎだよ‥‥」


殆どが本と植物だけど、一人暮らしに
しては多過ぎなのかもしれない


でも何とか土曜日の午前中には
間に合いそうだ‥‥


7年間住み慣れたこの場所とも
遂にお別れかと思うと、少しだけ
寂しい気もする。


それでも、大切な人の幸せを願う
人生も悪くないと思えているし、
出会えた人達から貰えたパワーが
背中を押してくれている気がした



金曜日、最後の出勤を終えて
みんなが帰ってからそっとデスクに
手紙を置きオフィスを見渡す


ここの服を本当はもっと着たかったな‥


結局1着しか着る事が出来なかった
けれど、この3年間このブランドの
仕事に携われて良かった‥‥


酒向さん‥‥ごめんなさい。
手紙一つで去る私のことなど
もう忘れて、幸せになってください。
紫乃さんに会えた時の酒向さんの
誰かを愛しむ顔を見れて良かった‥‥



ありがとうございました‥


部署の入り口で最後に頭を下げると、
振り返らずにオフィスを後にした。