遣らずの雨 上

いつもそばにいてくれた‥‥。


突き放しても、変わらず接してくれて、
こんな捻くれた私と向き合ってくれた
優しい人だ‥‥‥


私はもう皐月とは会えないけれど、
酒向さんには奇跡が起きた。


一途にずっと想って生きて来た
愛しい人と再会できて、これからきっと
沢山楽しい日々が待ってる‥‥


「‥‥‥ありがとうございます。」


『新名‥‥‥‥
 元気になったらまた話そう。
 彼女のことで色々と嫌な思いを
 させてすまない‥‥。でも
 紫乃のことをちゃんと話したい。』


優しく頬を撫でる手に擦り寄ると、
ゆっくりと近づいて来た酒向さんが
おでこにそっと唇を寄せた。


『家まで送るから、そこにもたれて
 寝てていい。苦しくなったらすぐに
 言うんだよ?』


座席を少し倒した場所に私を座らせて
くれると、シートベルトをつけて
酒向さんは運転席に向かった。



皐月‥‥‥。
私ね‥‥初めて好きになった人と
すごく幸せな時間を過ごせたよ。


貴方が出来なかったことを、
私がしてしまったことがとても
申し訳なく思い、変われるものなら
皐月と変わってあげたかった‥‥‥


恋ってすごいんだ‥‥‥。


自分のことしか考えずに生きて来た
のに、誰かのことを考えて頭の中が
それだけでいっぱいになる‥‥


‥‥‥本当に出会えて楽しかった。


沢山泣いたし悩んだけど、
それに勝る気持ちを教えてくれた。


だから、最後は笑顔でいたい‥‥


だって最後に見る大切な人の顔を
ずっと覚えていたいから、その顔は
やっぱり笑っていて欲しい。



だから、もうわがまま言わないから、
最後に力を貸して‥‥‥皐月‥‥


支えてもらいながら玄関の前まで
一緒に来てくれた酒向さんが
心配そうに体を屈めて見てきたので、
笑顔を見せて笑った。


「もう大丈夫ですよ。
 雨の中ここまで送っていただいて
 ありがとうございます。」


家に着いた途端に降り始めた雨音が
どんどん強くなり、雨の香りが
ここまで届くと切なさが増す。



酒向さんに自分から勇気を出して
抱きつくと、すぐに酒向さんも私の
背中に手を回し抱き締めてくれた。


『明日も無理なら休んでいいよ。
 明後日から出張に行ってしまうけど、
 帰ってきたら【むらせ】に行こう。』


「‥‥‥はい。」


上から見下ろす愛しい人に笑顔で
そう答えると、近づいて来た酒向さんの
唇がそっとオデコに触れた