遣らずの雨 上

また‥‥これが普通になるのにね‥‥


仕事も今度こそ本当に辞めるべきなのかもしれないし、残りの人生をこれから
どう生きていくべきかを考える。


いつまでも避けてはいられないし、
酒向さんと話をしないといけないなら、
今日中の方がいいのかな‥‥


水曜日から出張で居ないけど、
明日と明後日はオフィスでどうしたって
顔を合わさないといけないのだ


前と違って、上司として向き合えるか
自信がない‥‥


スマホを取り出し、暫く漆黒の画面を
眺めた後電源を入れると、震える手で
酒向さんの番号に発信した


プルルルル‥‥‥プルルルル‥‥プルル


ピピ


「‥ッ‥もしもし‥‥」


『体調は大丈夫なのか?』


泣くな‥‥‥。
今だけは堪えてしっかり話さないと
いけないでしょ?


「すみません‥‥勝手に帰ってしまって
 ‥‥。体調が悪くて父のところに
 行ってたので連絡出来ずでご心配を
 おかけしました。」


お父さんが酒向さんと何を電話で
話したのかは分からない‥‥。


それでも、心配をかけたことは
自分の口で謝りたかったのだ。


『ごめん‥‥‥‥俺のせいだな‥‥。
 ツラい思いをさせて申し訳ない。
 昨日のことは本当に突然過ぎて、
 まだ整理できていないが‥‥
 君にはちゃんと話したい。』

ドクン




「ッ‥‥‥わかりました。
 仕事はいつも通りにしますので、
 心配いりませんよ。
 ‥‥‥私はもう大丈夫ですから。」


今もそこにあの人が居るかもしれない
と思うと、胸が締め付けられながらも
酒向さんだけは困らせたくないから、
笑顔こそ見えないものの、明るい声で
そう伝えた。


『新名‥‥俺は』


「すみません‥なんか疲れちゃって、
 今日は早めに寝ようかなって‥‥。
 電話できて良かったです。
 おやすみなさい‥‥」


『‥おやすみ‥‥。』


今にも溢れ出しそうな涙を上向いて
堪えると、大きく深呼吸をして笑った。


酒向さんを笑顔にしないといけないのに、私の事でこれ以上ツラい思いを
させたくない。


大切な人には幸せになって欲しいし、
それを側で見守れなくても、酒向さん
が笑顔でいてくれたらもうそれで
いいって思えた。


「‥‥しっかり食べないと。」


また前みたいに倒れたりしたら、
それこそ自己管理不足で心配かける。


今私に出来ることは、素直に受け止める
勇気と、元気な姿を見せること‥‥


落ち込んでなんかいられない‥‥
ちゃんと生きないと‥‥‥。