「あくまでもソレは取引なの。
そして相手は犯罪者。
お互いにそれなりのリスクを抱えて行うのよ。
そんな割に合わないリスク、御免だわ。」
「おかしいですね。」
「……何がよ。」
「それは貴女の言葉じゃないでしょう。
貴女はただ売人……犯罪者と手を組むような形が気に入らない。
そう思ってるんですよね。
それでも別に良いと思いますけど。
何で隠そうとするのか理解出来ません。」
と首を傾げパソコンに向き直る椎名に樹は何も言えず、ただその相棒を見つめた。
『これは俺の理論だがな。』
あの男の言葉が蘇る。
たった一人の相棒――金城要。
ふと思い出す彼はいつもタバコをふかしている。
『お前はもうちょっと感情を上手く隠せ!
恨みも憎しみも表に出し過ぎなんだよ。
牙は隠せ。
隠して隠して温存しろ。
剥き出したままにしておくと大事なもんまで傷付けるぞ。
そんなもんは凶器じゃなく、狂器に成り下がる。
狂器じゃ大事なもんは守れねぇ。』
「…………金城……」
「え?今何か……」
「なんでもないっ!」
そう怒鳴ると樹はくるりと椎名に背中を向ける。
それを見て椎名は小さく溜息をつくと「コーヒーを入れます。」と立ち上がった。
「……念のため、井原さんには注意してね。」
向こうを向いたまま、樹が呟く。
「分かってます。」とコーヒーを差し出すと樹は「それならいいんだけど」とそれを受け取った。
