「……ERSAに帰ろう。」
掠れるような小さな声で樹が呟く。
「えっ!?緋口からの連絡を待たなくていいんですか?」
椎名が、いつもと代わらぬ調子で答えてきたことに安心したのか、顔色が少し良くなったように見える。
「……いいんだ。それより緋口の身元を洗う方が先。」
「……まさか…!その山田って……」
「そ、デタラメ。」
んべ、と舌を出す樹。
鎌を掛けるためだけに咄嗟についた嘘だったと言う訳である。
椎名は呆れて物も言えない様子だ。
「……まぁ、向こうもそうと分かった上で調べるって言って来てたみたいだから。
ぶっちゃけ、結果はどうでもいいんだ。」
思い出したように、つまらなさそうな顔をする。
どうやら、先程までのやり取りは、もう水に流れかけているようだ。
椎名は、思わず安堵のため息をついた自分に驚いた。
……今、関係が拗れてコンビ解消にでもなったら3ヶ月間の苦労が水の泡になる――
それを回避出来たという安堵だと自分に言い聞かす。
「それじゃあ、ERSAに戻りますよ。」
車のエンジンをかける。
2人それぞれの思いを抱えてERSAへと帰還するのだった……
