顔を見て気持ちがだいぶ緩んだのもあり、気づけば私はまた泣いていた。
「はなちゃん、泣いてる。ほんと弱虫だね」
からかいながらも優しい顔でティッシュを差し出した彼を、無意識に私は両腕で引き寄せて抱きしめていた。初めて異性とハグなんてしたし状況が状況でかなり不格好でハグというよりタックルのようだったと思う。
急に抱きついてきた私にびっくりしながらもあの人も抱きしめてくれて、ぎゅってしてくれて頭を撫でてくれて耳元で小さな声で大丈夫と言われると涙がもっと止まらなくて、この両腕を離したくなかった。
彼はその夜はずっと抱きしめてくれていた。
初めて男の人に抱きしめられながら眠った。とても落ち着く匂いだった。
薬を飲んでも眠れない夜が嘘のようで、あの人の匂いに包まれながら私はずっと眠っていた。目を覚ました時には日が傾いていて、あの人も隣にいなくて一瞬状況が分からなかった。
時計を見ればどうやら12時間以上眠っていたらしい。
いつもと違う景色を見て、ああ昨日家出してあの人の家に泊まっているんだとやっと思い出した。とてつもなく不安になってあの人の姿を探すけれど名前を呼ぶけれどいなくて、半ばパニックになりながら家中を探し続けているとダイニングテーブルの上にメモがあることに気がついた。
『バイトに行ってくる
帰るのは深夜だから先に寝といた方がいい
お腹が空いたら家にあるものなんでも適当に食べていいけど外には出ないで。何かあったら電話して』
電話番号の書かれたメモだけがあってとても寂しくて会いたくてすぐに電話をした。アプリの通話じゃなくて、電話番号から掛けたのは初めてだった。だけどあの人はバイト中だから電話が取れるはずもない。虚しくコール音だけが静かな部屋に響き渡った。