車のエンジンを切る音で目が覚める。あの人に何度も名前を呼ばれたけど、寝たふりをした。動きたくなかった。動けなかった。
家から出てノンストップで動いてきた私の体は寒さですっかり冷やされて発熱していた。あの時は眠くてそんなこと気づかなかったけどすごく熱かったらしい。
結局あの人が私を抱き上げて運んでくれた。筋肉質でかたくて男の人の体らしくてほっぺに刺さるあの人の髪の毛がくすぐったくてこんな状況なのに少し笑いそうになった。
全体重をかけているし重いだろうなと思ってたらいつの間にか部屋についていて、起きるのも何だかなと思い私はそのまま寝たふりを続けた。きっともう顔を見られてるだろうけど私はまだあの人の顔を見れていない。
そう考えているうちに、あの人は私をベッドに運んで寝かせたらしい。柔らかいマットの感触とふわふわな毛布がとても心地よかった。暖房のついたあったかい部屋だった。
かじかんだ手足の感覚が戻るまであの人はずっと私の手を握ってくれた。とても心強くて安心してこんなにほっとするのは久しぶりだった。
ふと、あの人の気配が無くなった。
少し気になったため不安でいっぱいのまま少し目を開けて周りを見渡すと、1LDKのこじんまりとした部屋にいることがわかった。あの人の生活感が漂っていて、こんな夜に男の人の家で寝ているという非日常感がさらに私の不安を加速させた。
足音的にあの人は台所にいるみたいだった。こちらに向かう足音がして急いで目を瞑る。
「はなちゃん、お家に着いたよ。温かい飲み物でも飲もうか。」
私は寝たふりを続けて何も答えなかった。