一輪のバラード


それからわたしは、毎日少しずつ仕事を覚えていき、時には絃士さんと共に店舗巡回に行ったりもした。

お昼はいつも絃士さんがどこかしらに食べに連れて行ってくれて、ちゃんと給料をもらっているんだから、「自分で払います!」と言っても払わせてもらえなかった。

絃士さんは社長だというのに、全然偉そうにしないし、他の社員たちにも優しく、部長から「うちは離職率が低いんだよ。」と聞き、納得してしまった。

そして、わたしが転職して社長秘書になってから、もうすぐ1ヵ月が経とうとしている時。

定時で退社したわたしは、会社を出てバス停に向かって歩いて行こうとしていた。

すると、「ひかりちゃーん!」とわたしを呼ぶ声が聞こえ、わたしは声のする方に振り返った。

そこには、白いレクサスから降りて来た颯さんの姿があった。

わたしは颯さんに歩み寄り、「お久しぶりです。どうしたんですか?」と訊くと、颯さんは「ひかりちゃんが転職したなんて聞いてないよぉ!」とちょっと不貞腐れた感じで言われた。

「あ、言ってませんでしたっけ?」
「聞いてない!さっきまた食事に誘おうと思って迎えに行ったら、芽衣子さんと桃華ちゃんしか出てこなくて、芽衣子さんに絃士の秘書になったって聞いて、急いで来たんだよ〜。」
「あぁ、、、なるほど。」

颯さんは不満そうな表情を浮かべると、「ほら、乗って!焼肉行くよ!」と言う。

「強制ですか?」
「俺に報告しなかった罰です!」
「罰?颯さんに報告しなきゃいけない義務なんてありましたっけ?」
「いいから!ほら、行こ!」

わたしは疑問に思いつつも颯さんの助手席に乗り込み、いつもの焼肉屋さんへと連れて行ってもらった。