いつからだろう、自分に嘘をつくようになったのは。
38年間生きてきて、ここ数年のことだろうか。
職場からの帰り道の電車内でそんな事を思っていた。
数日前、真白さんという女性に助けられた場所を通り過ぎ、自宅へと向かう。
彼女にお礼をメッセージでは伝えたのだが、また会いたいということは伝えられずにいた。
「自分に素直に」彼女から言われた言葉が頭から離れず、私の背中を押した。
自宅の鍵をあけ、いつものソファーに座る。
「こんばんは。お礼をしたいので今度お会いできませんか。」と入力して5分考えてようやく送信できた。
その後私は疲れていたのもあり、ソファーで眠りに落ちた。
朝になり、体が痛くて起きた。
やっぱり、ソファーで寝るのはダメだなと思いつつ、真白さんからの返信がないか確認する。
すると、数分前に一件メッセージが入っていた。
「おはようございます。メッセージ、ありがとうございます。お礼をされるほどの大したことはしていませんが、お会いしたいです。」と書かれていた。
内心、すごく喜んだ。
それから、真白さんとは何回か連絡を取り、会う日にちを決めた。
私がお礼をするのだからと会う場所は自分の方で決めた。
結局、助けてもらった駅の近くのカフェで会うことになった。
当日、待ち合わせ時間の20分前に私はカフェの前に着いた。真白さんは10分後に来た。
スノーホワイトのセーターを着ていた。これほど似合う人がいるのかとさえ思った。
お店に入り、私は緊張しながら、椅子に腰掛けた。
私は言う『先日は、本当にありがとうございました』
『えぇーと、申し遅れました私は洸と言います。』
彼女は言う、『洸さんですか、良い名前ですね。』
『私の名前は、真白です。真に白いと書きます。』
緊張からか、お互いの自己紹介みたいなことしかできない。
『私は、38歳です。失礼ですが、真白さんは』
真白は言う『25歳です。洸さんはとっても若く見えますね。』
彼女のその言葉がお世辞でも嬉しかったが、歳の差に少しがっかりした。
彼女のことをもっと知りたいと思い『仕事は何をされているんですか。』と聞いた。
真白は言う『地方の農家さんの手伝いをさせてもらってます。食べることが好きなので、それで興味を持って。』
だから、メールの返信も朝早かったのかと納得する。
『じゃあ、今日はわざわざ来てくれたんですか。すみません。てっきり、この駅の近くに住んでるものだと』
と私。
『いえいえ、バス一本あれば来れる距離ですから。大丈夫ですよ。』
真白さんの話しを聞けば聞くほど、彼女に興味が湧いたし、楽しかった。
この時間がずっと続けば良いのにとも思った。
1時間30分くらい話して、カフェをでた。
真白は言う、『今日はありがとうございました。』
私は言う『あなたに興味があります。また、会ってくれますか。』私が言った言葉なのに、私は驚いた。
真白さんもとても驚いていた。
真白は少しして答えた。『また、会いましょう。次は私が会う場所考えますね』とにっこり笑った。

その後、真白とは1ヶ月に2回ほど会った。なんとか、口実をつけて。
そんな生活が1年続き、私はある覚悟を決めた。
その日は、この場所では、とても珍しい、雪が降る日だった。大きい真珠みたいだ。
私は、雪が降る中、帰りがけに真白さんに言った。
『あなたと過ごして私は変われました。あなたの言葉に救われました。出会った時から、あなたに惹かれていました。愛しています。結婚してください。』
ととても大きな声で言い、指輪を差し出す。

真白は泣いていた。
嬉しいのかと感じたが、なかなか返事をくれないので私も戸惑って聞いた。
『大丈夫?どうしたの』
真白は答えない。
少ししてようやく真白さんは答えた。
『ごめんなさい。とても嬉しいけど、』
一瞬、振られたのかと思ったが、続けて彼女は言う。
『私の家は、少しおかしいの。だから、結婚したら、洸さんに迷惑をかけちゃう。ごめんなさい。』
彼女はその場から立ち去ろうとする。
私は、不意に手を引き、
『逃げてばっかじゃ何も変わんないよ』
『真白が私を変えてくれたように、真白が家の事で悩んでるなら、一緒に立ち向かう。真白の人生一緒に背負うよ。』と私。
彼女はこちらを真剣に見ていた。
そして、彼女は言った。
『ありがとう。そこまで、私を思ってくれる人に出会ったのは初めてで。私の家を一緒に変えてくれる?』
私は改まって言う、『もちろん。真白の人生一緒に背負うよ。私と結婚してください。』
真白は、いつもと変わらない笑顔で『はい。喜んで』といった。
真白のことは少し気になるけど、私にとって、この真珠のような雪の降る日は、最高の日だった。