この世の中には失恋と呼ばれるものがある。それは厳しくて、怖くて、時には儚くて美しく、まるで積もってはすぐに溶ける雪のようなもの。映画や小説では美しく散る恋。別れは残酷だ。だから、私はこの鬱金香に染まった雪が嫌いだ。
私、石田このみは毎朝始業の一時間前に登校するルーティンというには物足りないような習慣がある。別に今は理由らしい理由は無い。昔からの癖と言った方が正しいだろうか。
教室に入り窓際の一番前、出席番号1番の席に座る。始業の一時間前とだけあって人は疎だ。テニスコート二面分程の大きさしか無い校舎に囲まれた校庭は閑静に包まれていた。人が通ったと思うとそれは教師や用務員が殆どだ。
私は鞄から一冊の小説を取り出す。半年前まで私が恋をしていた先輩に教えてもらった本。
たった二人の行動がこの小説の世界に色をつけている。白い紙に綴られて黒い文字が、何十、何百との色でこの世界を奏でている。既に何周もしているはずの本、だけど一回一回呼吸を忘れる程文字と言う波に飲み込まれる。
「また、同じ本読んでる」
背後から声を掛けられる。本に集中しててその存在に気付かなかった私の体は驚き大きく震える。
「結衣か、びっくりさせないでよ。」
腰まである髪を一つに結んだこの高身長ハイスペック風女子は石田結衣。私の数少ない(唯一の)友達で、
親友だ。そして同姓。ただ血が繋がって無い、赤の他人だ。
「この本は私にとって世界で一番大事な本だからね。それはもう何回でも読みますよ」
「毎朝同じもの読んでよく飽きないよね。例の先輩も真衣にこの小説教えた甲斐があったんじゃない?」
「それは本人に聞かないと分からないね」
「聞けば良いじゃん」
「意地悪な事言うね」
「え、なんで?」
「なんでも」
きっと意地悪は私だ。何も知らない結衣を意地悪に仕立て上げるなんて。まったく困ったものだ。
私、石田このみは毎朝始業の一時間前に登校するルーティンというには物足りないような習慣がある。別に今は理由らしい理由は無い。昔からの癖と言った方が正しいだろうか。
教室に入り窓際の一番前、出席番号1番の席に座る。始業の一時間前とだけあって人は疎だ。テニスコート二面分程の大きさしか無い校舎に囲まれた校庭は閑静に包まれていた。人が通ったと思うとそれは教師や用務員が殆どだ。
私は鞄から一冊の小説を取り出す。半年前まで私が恋をしていた先輩に教えてもらった本。
たった二人の行動がこの小説の世界に色をつけている。白い紙に綴られて黒い文字が、何十、何百との色でこの世界を奏でている。既に何周もしているはずの本、だけど一回一回呼吸を忘れる程文字と言う波に飲み込まれる。
「また、同じ本読んでる」
背後から声を掛けられる。本に集中しててその存在に気付かなかった私の体は驚き大きく震える。
「結衣か、びっくりさせないでよ。」
腰まである髪を一つに結んだこの高身長ハイスペック風女子は石田結衣。私の数少ない(唯一の)友達で、
親友だ。そして同姓。ただ血が繋がって無い、赤の他人だ。
「この本は私にとって世界で一番大事な本だからね。それはもう何回でも読みますよ」
「毎朝同じもの読んでよく飽きないよね。例の先輩も真衣にこの小説教えた甲斐があったんじゃない?」
「それは本人に聞かないと分からないね」
「聞けば良いじゃん」
「意地悪な事言うね」
「え、なんで?」
「なんでも」
きっと意地悪は私だ。何も知らない結衣を意地悪に仕立て上げるなんて。まったく困ったものだ。
