とくべつな人

快特三崎口行きは、上大岡から金沢文庫を通る。

 そして、この辺りには、日産の工場が、追浜にあって、サッカーの横浜マリノスのサッカースクールがある。

 ユウイチは、実は、少しだけサッカー選手になりたい時期があった。

 子供の時だった。

 そして、サッカーでは、よくシュートを決めていたけど、実は、子供同士で喧嘩をして、サッカーが嫌いになった。

 小学校の体育の授業で、サッカーがあった。

 それで、ユウイチは、わざと、シュートを外して、教師から「どうして、そんなことをしたんだ?」

 と言われて怒られていた。

「この辺りって、横浜マリノスが、強いじゃん」

「だよね」

 と言った。

 電車は、横浜市内から横須賀市内を走ろうとしている。

「オレさ」

「うん」

「サッカーが、嫌いだったんだ」

 とユウイチは、サヤカに言った。

 サヤカは

「どうして?」

 と尋ねた。

「友達と喧嘩になったんだ」

「どんな理由で?」

「お前、シュートの時、ズルいことしただろうって」

 と言った。

 しばらく、サヤカも沈黙していた。

 横須賀中央などを通っている。

 たまに、国道が見え、住宅街を通る。

 東京都心と違い、この辺りは、多少は、緑も多い。

 海辺の町をそのまま、電車は、颯爽と走る。

 そして、道路から、たまに、チラホラ、レストランやカフェの看板が見えてきた。神奈川県横須賀市と言われたら、元歌手の山口百恵とか渡辺真知子、または、元首相の小泉純一郎の地元になる。

 そして、カレーの看板だってある。

 港だってある。

「私だって、歌手になりたかった」

「だな」

「私だって、本当は、いきものがかりの聖恵さんになりたいと思っていた」

 と、繰り返し、同じことを言った。

 堀之内駅に着いた。

 そして、ユウイチとサヤカは、堀之内駅のプラットフォームに着いたら、渡辺真知子『かもめが翔んだ日』の発着メロディーが、聴こえてきた。

〽かもめがとんだ かもめがとんだ あなたはひとりで生きていくね

 この時、サヤカは、渡辺真知子の曲を聴いて、ゲイだった恋人を思い出した。

 そうだ、先輩は、私の心を掴んだまま、関西へ行ってしまったと思った。だが、今のユウイチは、それで良いのかと思った。

 と流れて、電車が、都心に向かった。

 改札口を出て、数分、歩いた。

「そうだ」

「何?」

「さっきさぁ、サヤカも、して欲しいことがあるって、言ったじゃん」

「うん」

「何をリクエストしたいの?」

「わっかんない」

 と笑顔で言った。

 しばらく、堀之内駅の周辺を歩いていた。

 そして、しばらくして、公園にたどり着いた。

 公園に着いたら、家族連れが、羽子板をしている。

 または、コマ回しをしている。

 そして、スマホで、それらの光景の動画を撮っている。

 ユウイチは、本当は、陸上選手をしていたのだが、本当は、あまり、友人なんていなかった。

 陸上選手をしたいのは、それは、「運動をしていたらカッコイイ」があった。勿論、走るのは、間違いなく早かったし、野球のキャッチボールも好きだったが、本当は、音楽にも興味が、あった。

 だが、2025年1月2日の現在は、箱根駅伝の日だ。

 そして、少し、クルマで行ったところで、大学生たちは、走っている。皮肉だったのが、ユウイチは、怪我をして陸上選手になれなかった。

 ただ、ユウイチは、あまり、音楽を聴いていて、「好きだ」とか「愛している」なんて軽々しくそんな言葉を使って良いのかと悩んでいた。

 それでも、いきものがかりの曲は好きだったのもあった。特に、いきものがかりのリーダーの水野良樹のエッセイを読んで思った。

すごい、と。

 ドラマで、若い男女が「好きだ」「愛している」なんて言いあうのを見たり聴いたりしたら、「本当だろうか?」「ウソだろうか」と思っている部分もあった。そう間違いなく、ドラマは、「詐欺師みたい」と思ったこともある。

 確かに、好きになれない曲もある。

 だが、今は、ユウイチは、そんなドラマの世界を超えているとも思った。

 ユウイチは、たこ焼き店で、自分の制服を汚したサヤカが、「ごめんなさい」と頭を下げて、それで、今に至っている。

 自分は、頑張ってここまで恋愛をしている、と言い聞かせた。

 だが、自信なんて、本当は、持てなかった。

 その時だった。

 目の前に、たこ焼き店が、あった。

 サヤカが

「ねえ、たこ焼きでも、食べる?」

 と言った。

 その時だった。

 ユウイチは、そのたこ焼き店に嫉妬した。

 オレは、たこ焼き店の店員だけど、こんなところまで来て、サヤカが、他のたこ焼き店の男と一緒にいてほしくないと思った。

「行くな」

 と言った。

「どうして?」

「あいつのたこ焼きよりも、オレが、もっと、良いものを見せるから」

 と急に怒ったように言った。

「オレ、今から、いきものがかりの『NEW WORLD MUSIC』を歌うから」

 と言った。

 そして、

〽君のことを好きになる だから世界を今好きになるYEAH YEAH!

 と歌い始めた。

 周りの人もびっくりして、いきものがかりの歌を歌っているユウイチを観たが、歌い終わってから、その場にいた10名は、(サヤカも含めて)拍手をした。