とくべつな人

ユウイチとサヤカを乗せたアクアは、横浜駅に着いた。

 まだ、新年早々だから、横浜駅には、「一月一日」のメロディーが、横浜駅構内に流れていた。

 時々、羽織袴姿やら着物姿の人。

 英語をしゃべっているビジター。

 または、年末年始を、横浜で過ごそうとしている地方からの観光客もいた。

 ユウイチとサヤカは、京急のプラットフォームへ向かった。

「何かワクワクするね」

 とサヤカは、ユウイチに言った。

 ユウイチは、少しだけ、照れた。

 サヤカは、本当に電車が好きなんだって、直感で思った。

 上野東京ラインや横須賀線、湘南新宿ライン、京浜東北線、相鉄なんて横浜駅に乗り入れしているが、これから、二人が向かうのは、京急横浜駅だ。

 ユウイチとサヤカは、横浜駅から堀之内駅までの乗車券を買った。

 そして、階段を上がって。地上のプラットフォームへ向かった。

ーまもなく1番線に快特三崎口行きが、参ります。危険ですが、ホーム柵に物をたてかけたり、もられないでください。

 とアナウンスが、流れた。

ー街の明かりがとてもきれいねヨコハマブルーライトヨコハマ

 といしだあゆみ『ブルーライトヨコハマ』と共に、快特三崎口行きが、品川方面からプラットフォームに入ってきた。

 運転席には、女性の運転士が、いるのが、分かった。

「ユウイチ」

「何?」

「快特三崎口行きが、入って来たよ」

「だなぁ」

「やっぱりカッコイイよ」

 とどこか子供のように無邪気になって喜んでいた。

 ユウイチとサヤカは、そのまま、快特三崎口行きに乗った。

 そして、車内は、クロスシートだったから、ユウイチとサヤカは、並んで座った。

「私、こっちがいい」

 と言った。

 サヤカは、窓際の席に座った。

「ユウイチ、あっち、浅草線の車両だよ」

「だな」

 と言った。

 その時、スマホで、カシャと、サヤカは写真を撮った。

「まもなく発車します」

 と車掌は、アナウンスをして、快特三崎口行きは、出発した。

 そして、サヤカは、くるりの『赤い電車』を歌い始めた。

 〽赤い電車に乗って

 と陽気に歌い始めた。

「やめろよ、恥ずかしいじゃないか」

「だって、今日は、おめでたい日なんだから」

「だったら、〽もういくつ寝るとお正月、にしろ」

「それは、大晦日の歌うんじゃない」

 と反論してから

「でも、関係ないもん」

 と、サヤカは、周りに関係なく歌い始めた。

 だが、と思った。

 いっか、楽しそうか、とユウイチは、思った。

「今日はさ」

「うん」

「箱根駅伝の日だよ」

「だなぁ」

「だけど、ユウイチ」

 歌い終わったサヤカは、少し、静かになった。

「明日は、どうなるのか、なんて分からないよ」

 と言った。

 今、快特三崎口行きは、無事に走っている。

 その時、サヤカは、カバンから、チョコレートを取り出した。

「まだ、後しばらく、電車に乗らないといけないから、腹ごしらえ」

 と言った。

「ありがと」

 と素っ気なく言ったが、だが、内心、ユウイチは、嬉しかったのだ。

 本当は、こんな風に、女性とデートしたかったのだが、できなかった。

 人一倍、異性に興味がありながら、「女は、オレのことを認めてくれない」だの「男としてみてくれない」だの、ただ、ユウイチは、コンプレックスがあったのだが、それでも、ユウイチは、サヤカとこうして電車に乗って、今、堀之内駅まで向かっている。

 本当は、ユウイチにとってみたら、今は、サヤカは、<とくべつな人>なのだ。そして、ユウイチは、狭い世間で生きていながらも、こうしてユウイチは、サヤカと一緒に、デートをしている自分に喜びを感じていた。

 そして、しばらく、二人は、ぼっとしていた。

 10分経った時、サヤカもスマホを取って、ゆっくり漫画を観ていた。何か、少女漫画の感じだった。

 つられて、ユウイチも、スマホで、ゲームを始めた。

 その時、対向車線から、快特青砥行きが、走ってきて、窓を軋むような感じで、ビュンと音を立てた。

 その時、ユウイチとサヤカが乗っている快特三崎口行きも揺れた。

 揺れた車内で、ユウイチは、思わず、サヤカの腕から脚のラインにぶつかった。

ーどうしよう

 と思った。

ー今、ぶつかったなぁ

 とユウイチは、思った。

 そして、揺れた車内で、思わず、ユウイチは、サヤカの腕に掴まった。

ーサヤカの腕、柔らかいなぁ

 と思ったが

ーごめん

 と言うべきかどうか。

 迷った。

「サヤカはさ」

「うん」

「堀之内に着いたら、何がしたい?」

「ユウイチに何かして欲しいと思っている」

 と言った。

「いや、俺だって、サヤカとしたいことがある」

「へぇ、何?」

 本当は、ユウイチは、サヤカが、欲しかったのだ、身体が。

 だが、それを言って良いのかどうか、悩んだ。

 一方で、サヤカが、何を考えているのか、分からない。

「何を、私としたいの?」

 もう、ユウイチは、明日なんてないと思ってこう言った。

「サヤカを抱きたい」

 と言った。

「いや、良いね」

「何が?」

「男の人って、そんなところ、正直に言えるから」

「そう?」

「だけど、私も、お願いしようかな、堀之内に着いたら」