「君さぁ、何したのか分かってる?」
にっこり、と貼り付けた笑顔が怖い。口角は上がっているのに、明らかに目だけ笑っていない。つまり、怒っている。あの『優しい王子様・白雪くん』を怒らせてしまった。
いや、私はもっと恐ろしいことを知ってしまったのかもしれない……。
「お前、なめてんのか!」
「キャンキャン吠えんな負け犬が!」
校門をくぐると、そこはバトルフィールドだった。朝から元気に取っ組み合いをする二人の男子生徒を横目に、私はイヤホンから流れる英語に意識を戻した。
ここ皇前高等学校は、とある界隈では名の知れた高校だ。共学を謳いながらも女子生徒の数は三学年併せても十人程度、校則などあってないようなもの、着崩した学ランを今更注意する先生もいない。いわゆる、不良に属する生徒が多く集まっている。学力よりも、腕っぷしで競うために選ばれる学校なのだ。
こんな光景は見慣れたが、一つ不満を上げるとしたら現在、皇前に通う女性生徒は私のみということ。寂しいと言ったらウソになる。
殴り合いどころか口喧嘩すらしたことのない私が、なぜ皇前高等学校に通うことになったのか。それは、中学三年の冬にさかのぼる。
高校受験を控えていた私は、隣町の進学校への進学を希望していた。お父さんを説得し、学力も問題なし。あとは、試験を迎えるだけだった。しかし、試験の前日、私は人生ではじめて四十度に迫る高熱を出した。翌日も熱は下がらず、試験を受けることはできなかった。
後期日程まで枠は残っておらず、私は別の高校を探すハメになる。やっと納得できる学校を見つけ、試験を申し込むも、気分転換に出かけた散歩中に転んで手首を骨折。試験会場には行けたのだが、痛みでテストを中断せざるを得なくなった。
そんな中、入学式ギリギリまで募集していたのが皇前高等学校だ。
「実紅、本当に皇前でいいのか……? 大学進学が目標なら、高校は通信制でも……」
「いいの。私、皇前に通う。正直、家から一番近いし……その分、家のことも少しは手伝えるでしょ?
勉強はさ、先生と図書室があればできるから!」
どんなに治安が悪くても、大学進学を止められることはないだろう。
私は、超絶簡単なテストを受け、無事に入学試験に合格した。入学式の写真に映るお父さんの、不安そうな顔は今でも思い出すと笑える。
二年四組、教卓が眼前の一番前の席が私の居場所だ。リスニングの奥から教室の話し声が聞こえてくる。
「黒羽が三年ボコしたってマジか?」「一年の美園って奴がキレるとやばいらしい」……まるでSNSのように、強い生徒のウワサは瞬く間に広がって、朝から話題をかっさらう。「呼び出すか」と誰かが言ったが、冗談か本気かは分からなかった。
ここでは、先輩も後輩も関係ないらしい。強さが全てとは、恐ろしくもあり単純でもあった。
ケンカでトップを狙う生徒に囲まれ、ケンカとは無縁の生活をしてきた私は、テストでは学年一位を死守している。ここは抜かされるわけにはいかない。リスニングの再生を止め、教科書を探していると、机の隅をトントンと綺麗な指が跳ねた。
「おはよう、鏡さん」
「あ、白雪くん。おはよう」
隣の席の白雪司くんは、多分私と同じ部類だ。ぼっちの私にも話しかけてくれる優しさ、学年二位をキープしている頭の良さ、学級委員長もこなす優等生っぷり、傷一つない白く綺麗な肌、スラッと細い四肢、かっこいいより綺麗が似合う整ったお顔……
野性味あふれるヤンキーだらけの男子生徒の中では浮いている。
ワケは知らないけれど、きっと私と同じで本命の学校には入れなかったのだろう。二年になって隣の席になってから、私は勝手に親近感を抱いている。綺麗な横顔が、癒しでもあった。
この学校で恋愛なんて無理、と思っていた。しかし、予想に反して、青春の風を感じる初秋が始まっていた。
青春と一言で表しても、その内容は様々だ。恋人を作って甘酸っぱい時間を過ごす人、友達と何時間も語り合う人、部活に精を出し記録を更新する人、好きな分野の勉強を極める人、学校のトップを目指すためケンカに明け暮れる人……。
人の青春に口出しはしないが、できれば巻き込まないでもらいたいのが本音だ。
下校時間を告げるチャイムが鳴ると、三組の生徒が殴り込みにきた。開口一番「黒羽大河を出せ!」と叫んでいた。
朝、聞いた名前だ。同じクラスだったのか、と男子生徒の間をすり抜け、廊下まであと数歩のところでドアが閉められた。冷や汗が背中を伝う。
「逃げんなよぉ!」
そう言って、襲撃に来た生徒は四組の生徒に一斉攻撃を仕掛けていった。
ああ、これ私見えてないパターンだな。別に私を閉じ込めたかったわけではなさそうだ。
ふう、と緊張を抜きドアを開けると、ビュンと目の前をなにかが通った。廊下へと黒羽くんが投げ飛ばされていったのだ。一瞬で緊張感が戻ってくる。
今、動いたら、私も……?
背中を打ち、弱々しく声をあげる黒羽くんを見て足がすくんだ。今更怖がったって意味ないのに。
「おい! 黒羽はこっちだ!」
黒羽くんを敵視する生徒たちが、こちらに押し寄せる。ヤバイ。私のことが見えていても、見えていなくても、巻き込まれる!
「鏡さん! 危ない!」
グイっと強く腕を引かれ、固まっていた私はその力の方へ倒れ込んだ。
「大丈夫?」
「し、白雪くん……!」
倒れ込んだ先は、白雪くんの腕の中だった。とっさに引っ張ってくれたおかげで、廊下で怒っている乱闘に巻き込まれずに済んだのだ。
白雪くんだって怖いはずなのに。優しい上に度胸もあるなんてステキすぎる……!
恐怖でどくどくと鳴る心臓が少しずつおさまって……いかない。別の意味で心臓は再びうるさくなった。
あれ? 私、今、白雪くんの上に乗っかってる!?
「ご、ごめ、重いよね!? すぐ退きます!」
とっさに体を離そうとした時、白雪くんの肩に置いていた右手に何かが引っかかった気がした。
「っ! 待って、鏡さ」
白雪くんの声を遮るように、プチンと小さな音がした。気づけば、白雪くんの周りに小さな銀色の球体がいくつも散らばっている。手首に引っかかったのは、もしかして……
「……これ、ネックレス……?」
自分のしてしまったことに頭が真っ白になる。白雪くんの方を見れない。
ゆらりと体を起こし、白雪くんは大きくため息をついた。
「君さぁ、何したのか分かってる?」
朝見せてくれた笑顔とは全く違うと、さすがの私でも分かった。
「本当にごめんなさい!」
私は教室で堂々と土下座をした。しかし、白雪くんの反応は冷たいものだった。
「うーん、謝っても直らないし」
「あ……そう、だね……」
壊しておいてなんだが、白雪くんは優しいから、誠心誠意謝れば許してくれるものだと思っていた。土下座よりも誠意を見せられることを、脳の普段使わない場所をフル稼働させて考えた。
「何してんだ、司」
足音もなく近づいてきたのは、先ほどまでケンカを売られていた黒羽くんだった。廊下には倒れ込む三組の生徒たちがいる。どうやら今日は黒羽くんの圧勝らしい。
「あぁ、ネックレスちぎれたのか。片付けるからほうきを……っう」
「うるせぇよ」
目の前で起こった事態に私は思考停止した。殴った。お腹を殴った。白雪くんが、黒羽くんを殴った。
「……いってぇ……なにイライラしてんだ」
「あの……」
「お前は関係ないから帰れよ」
「関係ある。壊したのはこいつだ」
キレイな緑がかった瞳が鋭く私を刺した。その視線も怖かったけれど、それよりも白雪くんの口から「うるせぇ」とか「こいつ」なんて言葉が出てくることに驚いていた。
「これ、彼女からのプレゼントなんだっけ? それは……怒るか」
追撃。白雪くん、彼女いたんだ。私はついに限界を迎えた。
「ほんとーーーーーーにごめんなさい!!!!」
なるべく大きな声で、これでもかとおでこを床に擦りつけて謝るしかなかった。頭上で、冷ややかに視線を送る白雪くんと、ドン引いている黒羽くんがいることも知らずに。
翌日、私の土下座は一切ウワサされていなかった。それだけが幸運だ。昨日、普段なら参考書を開く時間に、一生懸命あの壊してしまったネックレスを調べていた。
「あった……げ、高くない!?」
学生でも買えなくはないが、決してお手頃価格ではなかった。罪悪感がさらに募った上での登校は気が重くて仕方がない。もうすぐ予鈴が鳴るが白雪くんはまだ来ない。
「いっそこのまま休んでくれれば」
「おはよう、鏡さん」
「ひっ」
恐る恐る顔を上げると、いつもの王子様のような笑顔があった。
「どうかした?」
「あ、あの、昨日は」
「あぁ、黒羽すごかったよね。一人で何人倒したんだろ」
クスクスと笑う白雪くんが逆に怖い。
「ちがくて、その、白雪くんの……」
「あ、今日、数学あったっけ? ごめん、教科書見せてくれない?」
「え? いいけど……それより、昨日はごめ」
「あのさぁ」
急に強くなった口調に、ビクリとした。頬杖をつき、こちらを見つめる白雪くんに笑顔はない。
「話、そらしてやってんの、分からない?」
「え」
「忘れてあげようかなー、と思ったのに、君のせいでまたネックレスのこと思い出しちゃった」
白雪くんは、ふっと悪い笑みを浮かべて私を見下ろしていた。
「せっかく本性隠して優しくしてあげてたのに。あーあ、もう隠すのめんどくさいや」
青春、恋愛、やっぱりそんなものここには無かったのかもしれない。崩れていく『優しい王子様・白雪くん』の姿……
私の高校生活、もっとハードモードになってしまったのかもしれない。
にっこり、と貼り付けた笑顔が怖い。口角は上がっているのに、明らかに目だけ笑っていない。つまり、怒っている。あの『優しい王子様・白雪くん』を怒らせてしまった。
いや、私はもっと恐ろしいことを知ってしまったのかもしれない……。
「お前、なめてんのか!」
「キャンキャン吠えんな負け犬が!」
校門をくぐると、そこはバトルフィールドだった。朝から元気に取っ組み合いをする二人の男子生徒を横目に、私はイヤホンから流れる英語に意識を戻した。
ここ皇前高等学校は、とある界隈では名の知れた高校だ。共学を謳いながらも女子生徒の数は三学年併せても十人程度、校則などあってないようなもの、着崩した学ランを今更注意する先生もいない。いわゆる、不良に属する生徒が多く集まっている。学力よりも、腕っぷしで競うために選ばれる学校なのだ。
こんな光景は見慣れたが、一つ不満を上げるとしたら現在、皇前に通う女性生徒は私のみということ。寂しいと言ったらウソになる。
殴り合いどころか口喧嘩すらしたことのない私が、なぜ皇前高等学校に通うことになったのか。それは、中学三年の冬にさかのぼる。
高校受験を控えていた私は、隣町の進学校への進学を希望していた。お父さんを説得し、学力も問題なし。あとは、試験を迎えるだけだった。しかし、試験の前日、私は人生ではじめて四十度に迫る高熱を出した。翌日も熱は下がらず、試験を受けることはできなかった。
後期日程まで枠は残っておらず、私は別の高校を探すハメになる。やっと納得できる学校を見つけ、試験を申し込むも、気分転換に出かけた散歩中に転んで手首を骨折。試験会場には行けたのだが、痛みでテストを中断せざるを得なくなった。
そんな中、入学式ギリギリまで募集していたのが皇前高等学校だ。
「実紅、本当に皇前でいいのか……? 大学進学が目標なら、高校は通信制でも……」
「いいの。私、皇前に通う。正直、家から一番近いし……その分、家のことも少しは手伝えるでしょ?
勉強はさ、先生と図書室があればできるから!」
どんなに治安が悪くても、大学進学を止められることはないだろう。
私は、超絶簡単なテストを受け、無事に入学試験に合格した。入学式の写真に映るお父さんの、不安そうな顔は今でも思い出すと笑える。
二年四組、教卓が眼前の一番前の席が私の居場所だ。リスニングの奥から教室の話し声が聞こえてくる。
「黒羽が三年ボコしたってマジか?」「一年の美園って奴がキレるとやばいらしい」……まるでSNSのように、強い生徒のウワサは瞬く間に広がって、朝から話題をかっさらう。「呼び出すか」と誰かが言ったが、冗談か本気かは分からなかった。
ここでは、先輩も後輩も関係ないらしい。強さが全てとは、恐ろしくもあり単純でもあった。
ケンカでトップを狙う生徒に囲まれ、ケンカとは無縁の生活をしてきた私は、テストでは学年一位を死守している。ここは抜かされるわけにはいかない。リスニングの再生を止め、教科書を探していると、机の隅をトントンと綺麗な指が跳ねた。
「おはよう、鏡さん」
「あ、白雪くん。おはよう」
隣の席の白雪司くんは、多分私と同じ部類だ。ぼっちの私にも話しかけてくれる優しさ、学年二位をキープしている頭の良さ、学級委員長もこなす優等生っぷり、傷一つない白く綺麗な肌、スラッと細い四肢、かっこいいより綺麗が似合う整ったお顔……
野性味あふれるヤンキーだらけの男子生徒の中では浮いている。
ワケは知らないけれど、きっと私と同じで本命の学校には入れなかったのだろう。二年になって隣の席になってから、私は勝手に親近感を抱いている。綺麗な横顔が、癒しでもあった。
この学校で恋愛なんて無理、と思っていた。しかし、予想に反して、青春の風を感じる初秋が始まっていた。
青春と一言で表しても、その内容は様々だ。恋人を作って甘酸っぱい時間を過ごす人、友達と何時間も語り合う人、部活に精を出し記録を更新する人、好きな分野の勉強を極める人、学校のトップを目指すためケンカに明け暮れる人……。
人の青春に口出しはしないが、できれば巻き込まないでもらいたいのが本音だ。
下校時間を告げるチャイムが鳴ると、三組の生徒が殴り込みにきた。開口一番「黒羽大河を出せ!」と叫んでいた。
朝、聞いた名前だ。同じクラスだったのか、と男子生徒の間をすり抜け、廊下まであと数歩のところでドアが閉められた。冷や汗が背中を伝う。
「逃げんなよぉ!」
そう言って、襲撃に来た生徒は四組の生徒に一斉攻撃を仕掛けていった。
ああ、これ私見えてないパターンだな。別に私を閉じ込めたかったわけではなさそうだ。
ふう、と緊張を抜きドアを開けると、ビュンと目の前をなにかが通った。廊下へと黒羽くんが投げ飛ばされていったのだ。一瞬で緊張感が戻ってくる。
今、動いたら、私も……?
背中を打ち、弱々しく声をあげる黒羽くんを見て足がすくんだ。今更怖がったって意味ないのに。
「おい! 黒羽はこっちだ!」
黒羽くんを敵視する生徒たちが、こちらに押し寄せる。ヤバイ。私のことが見えていても、見えていなくても、巻き込まれる!
「鏡さん! 危ない!」
グイっと強く腕を引かれ、固まっていた私はその力の方へ倒れ込んだ。
「大丈夫?」
「し、白雪くん……!」
倒れ込んだ先は、白雪くんの腕の中だった。とっさに引っ張ってくれたおかげで、廊下で怒っている乱闘に巻き込まれずに済んだのだ。
白雪くんだって怖いはずなのに。優しい上に度胸もあるなんてステキすぎる……!
恐怖でどくどくと鳴る心臓が少しずつおさまって……いかない。別の意味で心臓は再びうるさくなった。
あれ? 私、今、白雪くんの上に乗っかってる!?
「ご、ごめ、重いよね!? すぐ退きます!」
とっさに体を離そうとした時、白雪くんの肩に置いていた右手に何かが引っかかった気がした。
「っ! 待って、鏡さ」
白雪くんの声を遮るように、プチンと小さな音がした。気づけば、白雪くんの周りに小さな銀色の球体がいくつも散らばっている。手首に引っかかったのは、もしかして……
「……これ、ネックレス……?」
自分のしてしまったことに頭が真っ白になる。白雪くんの方を見れない。
ゆらりと体を起こし、白雪くんは大きくため息をついた。
「君さぁ、何したのか分かってる?」
朝見せてくれた笑顔とは全く違うと、さすがの私でも分かった。
「本当にごめんなさい!」
私は教室で堂々と土下座をした。しかし、白雪くんの反応は冷たいものだった。
「うーん、謝っても直らないし」
「あ……そう、だね……」
壊しておいてなんだが、白雪くんは優しいから、誠心誠意謝れば許してくれるものだと思っていた。土下座よりも誠意を見せられることを、脳の普段使わない場所をフル稼働させて考えた。
「何してんだ、司」
足音もなく近づいてきたのは、先ほどまでケンカを売られていた黒羽くんだった。廊下には倒れ込む三組の生徒たちがいる。どうやら今日は黒羽くんの圧勝らしい。
「あぁ、ネックレスちぎれたのか。片付けるからほうきを……っう」
「うるせぇよ」
目の前で起こった事態に私は思考停止した。殴った。お腹を殴った。白雪くんが、黒羽くんを殴った。
「……いってぇ……なにイライラしてんだ」
「あの……」
「お前は関係ないから帰れよ」
「関係ある。壊したのはこいつだ」
キレイな緑がかった瞳が鋭く私を刺した。その視線も怖かったけれど、それよりも白雪くんの口から「うるせぇ」とか「こいつ」なんて言葉が出てくることに驚いていた。
「これ、彼女からのプレゼントなんだっけ? それは……怒るか」
追撃。白雪くん、彼女いたんだ。私はついに限界を迎えた。
「ほんとーーーーーーにごめんなさい!!!!」
なるべく大きな声で、これでもかとおでこを床に擦りつけて謝るしかなかった。頭上で、冷ややかに視線を送る白雪くんと、ドン引いている黒羽くんがいることも知らずに。
翌日、私の土下座は一切ウワサされていなかった。それだけが幸運だ。昨日、普段なら参考書を開く時間に、一生懸命あの壊してしまったネックレスを調べていた。
「あった……げ、高くない!?」
学生でも買えなくはないが、決してお手頃価格ではなかった。罪悪感がさらに募った上での登校は気が重くて仕方がない。もうすぐ予鈴が鳴るが白雪くんはまだ来ない。
「いっそこのまま休んでくれれば」
「おはよう、鏡さん」
「ひっ」
恐る恐る顔を上げると、いつもの王子様のような笑顔があった。
「どうかした?」
「あ、あの、昨日は」
「あぁ、黒羽すごかったよね。一人で何人倒したんだろ」
クスクスと笑う白雪くんが逆に怖い。
「ちがくて、その、白雪くんの……」
「あ、今日、数学あったっけ? ごめん、教科書見せてくれない?」
「え? いいけど……それより、昨日はごめ」
「あのさぁ」
急に強くなった口調に、ビクリとした。頬杖をつき、こちらを見つめる白雪くんに笑顔はない。
「話、そらしてやってんの、分からない?」
「え」
「忘れてあげようかなー、と思ったのに、君のせいでまたネックレスのこと思い出しちゃった」
白雪くんは、ふっと悪い笑みを浮かべて私を見下ろしていた。
「せっかく本性隠して優しくしてあげてたのに。あーあ、もう隠すのめんどくさいや」
青春、恋愛、やっぱりそんなものここには無かったのかもしれない。崩れていく『優しい王子様・白雪くん』の姿……
私の高校生活、もっとハードモードになってしまったのかもしれない。

