The previous night of the world revolution4~I.D.~

「誰か思い当たる人、いるか?」

「むしろ、い過ぎて分からないですね」

「お前は数百人単位の女に恨まれてるだろうからな」

失敬な。

「誤解ですよルルシー。女の子達は、皆ちゃんと洗脳して、ちゃんと幸せにしてあげてますよ」

「…」

「そうだな。ルレイア先輩のハーレム会員が仕組んだ、とは考えにくい」

大体、こんな大それたことが出来る人間なんて、限られるだろう。

考えられるとすれば…。

「…ルレイア、そもそも今回の旅は…確か、オルタンスがチケットを送ってきた、と言ってたな?」

「…えぇ」

忘れるなかれ。

この旅行を俺達にプレゼントしたのは、オルタンスなのだ。

オルタンスが、クリスマスプレゼントと称して送ってきた。

それは、つまり。

「…あいつなら、こんな大がかりな罠を仕掛けることも出来るんじゃないか?」

「…一応、あいつは帝国騎士団のトップですからね」

この恐ろしい船を用意し、かつ俺達を罠に嵌めることも…あいつなら、出来ない訳じゃない。

それだけの実力と、財力と、権利がある。

「オルタンス…。あいつ、何を考えてるんだ…!こんなことをして…!」

「そう怒らないでくださいよ、ルルシー。オルタンスが犯人と決まった訳じゃないですよ」

「決まった訳じゃないって…。でも、オルタンスが俺達にプレゼントした旅行だろう、これは」

うん。旅行のきっかけになったのは確かにオルタンス…なのだけど。

「直接チケットを手渡された訳じゃない。誰かがオルタンスの名を騙って、送りつけてきた可能性もあります」

「…それは…」

まんまとそれに引っ掛かってしまったと思うと、癪だけどな。

「…それに、オルタンスがこんなことをするとは思えないんですよねー」

こちらも、認めるのは癪だがな。

「…俺も、そう思う」

と、ルルシー。

良くも悪くも、あの男は今俺達の脅威にはなり得ない…と、思う。

俺達は今、帝国騎士団と対立する理由もないし。

それに、俺達をこんな罠に嵌めることは、オルタンスはともかく、アドルファス辺りが反対するはずだ。

『青薔薇連合会』の幹部三人にこんなことをすれば、後に『青薔薇連合会』にどんな報復をされるか、想像出来ない奴らではない。

帝国騎士団は『青薔薇連合会』に借りもあるし、借りを作っているマフィアに歯向かうなんて、無謀なことをするとは思えない。

あいつらだって、馬鹿じゃないんだからな。

勿論、絶対オルタンスじゃないと言い切れる訳ではない。

俺に冤罪吹っ掛けたときみたいに、アドルファスや他の隊長達には黙って、事を進めている可能性もある。

必要とあれば、どんな非道なことでもやる男だ。

それは、俺が身を以て知っている。

俺達の知らないところで何らかの事情が出来、どうしても俺達を排除しなければならなくなって…こんな罠を張った可能性は、ゼロではない。

とはいえ…それでも、オルタンスが首謀者だとは思えない。

「オルタンスじゃないとすれば…首謀者は誰だ?」

一人だけ。

思い当たる人物がいる。