The previous night of the world revolution4~I.D.~

…さて、話を戻そう。

先程も述べたように、『白亜の塔』はとんでもない代物である。

更に、船で提供される飲食物にも、恐らく少量ずつ薬物が仕込まれている。

だが、俺達はマフィアだ。三人共、こういった洗脳薬物や自白剤を投与されたときの為に、薬物耐性がついている。

だから、薬物はそれほど…少なくとも、気づかれないように飲食物に混ぜ込む程度では、大して効き目がない。

それなのに、どうして俺達がこれほどまでに悪夢を見させられているのか。

それは…恐らく。

「船内に流れてる…あのシェルドニアの民族音楽」

「…客室以外、どの部屋でも常に流れてる、あの独特の音楽だな?」

「えぇ。俺達はあれを、勝手にシェルドニアの民族音楽だと思い込んでましたが…」

…多分、あれは違う。

これが本当の、洗脳ソング、って奴だ。

笑えない冗談だろう?

『frontier』の曲も俺にとっては洗脳ソングだが、こっちは同じ言葉でも、意味が全く違う。

「いやに頭の中に残る音楽だと思っていたが…そういうことだったのか」

「しかも、あれ…夜中、俺達が寝ている間だけは、客室にも流れてるぞ。今は三人共起きてるから流れてないが…」

と、ルリシヤ。

だろうね。俺もそう思う。

恐らく、監視カメラで確認されているのだ。

寝ている間だけ、あの洗脳ソングを流してる。

だから、起きたときにあの曲が頭の中に残っているのだ。

「薬物になら耐性があるが…さすがに聴覚で洗脳されたら、手の打ちようがないな」

「全くですよ」

耳でも塞ぐか?

それとも、スピーカーの方をぶっ壊すか?

いずれにしても、洗脳船の要、あの『白亜の塔』を叩き折らない限りは、どうしようもない。

まさか泳いで逃げる訳にはいかないのだから。

「しかし…ルレイア。あの音楽や、展望台が洗脳道具なのだとしたら…この船に乗ってる連中も、一緒に洗脳されてるってことか?」

「まぁ、そうなるでしょうね」

この船の正体を知っていて、俺達を惑わすサクラとして乗船しているのか。

それとも、本当にただの旅行のつもりで乗船して、巻き込まれただけなのか。

俺は前者ではないかと思うが…。

いずれにしても、この船に乗っている限り、彼らは既に洗脳されているか、それともこれから知らず知らずのうちに洗脳されていくか、どちらかだ。

「…不味いな。こんな大海原のど真ん中じゃ…逃げ出しようもないぞ」

「…それなんですよねぇ…」

それが一番困る。

この船の一番の問題は、この船が船であることだ。

やべぇからって、逃げられないんだよ。

途中で降りる訳にはいかない。

洗脳されていると分かっていても、乗っていなければいけないのだ。

おまけに。

「…外部との連絡手段も、既に絶たれている」

ルリシヤは携帯を弄びながらそう言った。

そう。それなんだよ。

「いつの間に…圏外に」

「さて…俺達がもう戻れない段階に入ったから、通信手段を絶ったんでしょう。こうなれば、外部と連絡を取って助けてもらう訳にもいかない」

俺達は今、袋のネズミ、って奴なのだ。