覚えておいでだろうか。

俺とシュノさんが、今のように仲良くなるきっかけとなった出来事。

ハリネズミのルクレツィア、通称ルーさんを、俺達は二人で飼うことにした。

あれ以来、二人で大事にルーさんを守り、可愛がってきたが…。

今、そのルーさんは…シュノさんの腕の中で、息絶えていた。

「ネズ公…!死んじゃった…のか?何で?病気…?」

アリューシャが、そう尋ねた。

更に、アイズレンシアも、

「医者には?連れていったの?」

「…連れていきましたよ」

泣きじゃくるシュノさんの代わりに、俺が答えた。

病院には、ちゃんと連れていった。

しかし…。

「病気ではありませんでした。医者によると、老衰だと…」

「…」

要するに、もう寿命だったのだ。

ハリネズミの寿命は、人間のそれとは比べ物にならないくらい短い。

人間と一緒に添い遂げる…なんてことは、まず無理な相談だ。

だから、いつかこんな日が来ることを…俺は、覚悟していた。

シュノさんも、それは分かっていたはずだ。

でも、覚悟していたとしても…実際にその日が来ると。

無感情でいられるはずがない。

「一昨日の朝まではね、まだ元気だったの。餌も食べてたし、玩具で遊んでたの…。でも…私が帰った頃には、全く動かなくなってて…」

シュノさんは、しゃくりあげながらそう言った。

そう、その段階で、シュノさんはすぐに俺に連絡を入れてくれた。

そこで一緒にルーさんを病院に連れていって、そして…「手の施しようがない」と言われた。

病気や怪我なら、治すことも出来るかもしれないが。

寿命を変えることは出来ない。

「さっきまで…お昼過ぎまで、ルーちゃん、頑張ってたのよ。頑張って生きてたの。でも…でも…」

シュノさんは言葉に詰まって、また声をあげて泣き出した。

俺は、シュノさんの背中をさすってあげた。

たかだかハリネズミの命くらいで、と思われるかもしれない。

だが、俺やシュノさんにとっては…特にシュノさんにとっては、かけがえのない家族だったのだ。

大事な家族の死に、例えそれが動物でも、鈍感でいられる者などいない。

「そうか…。それは悲しいな、シュノ先輩…」

「そんなに泣かないで、シュノ。その子も…ルーちゃんも、最期までシュノが傍にいてくれて、きっと心強かったと思うよ」

ルリシヤとアイズレンシアが、シュノさんに慰めの言葉をかけた。

その通りだ。

人間で言えば、大往生だったことだろう。

一人ぼっちで、誰にも看取られず息絶えることはなかった。

ちゃんと飼い主が…家族が傍にいて、最期まで見守ってくれた。

ルーさんも…きっと、安らかに眠れたことだろう。