The previous night of the world revolution4~I.D.~

ルレイアは、夢を見ていたのだ。

昔の夢。

恐らくルレイアにとって、思い出したくもないほど辛い過去の記憶。

ルレイアが、こんなにも怯え、震えている訳だ。

立ち直っているように見えても、あの忌まわしい記憶は、ルレイアの中から消えた訳ではない。

現に今、こうして…息を吹き返して、ルレイアを苦しめている。

俺は猛烈に自分を責めた。

もっと早くに、俺が気づいていれば。

すぐにルレイアを、無理矢理にでも叩き起こしてやれば。

ルレイアに悪夢を見させることもなかったはずだ。

「あの頃の人達が…俺を見ていて…それで…」

「ルレイア…無理に話すことは…」

「それで、ルレイア先輩。身体の方は大丈夫なのか?」

俺はルレイアを制止しようとしたが、その前にルリシヤが、わざとそれを遮るようにそう聞いた。

一瞬、何を言ってるんだ、と思った。

ルレイアが大丈夫じゃないのは、見れば分かる。

しかし、ルリシヤが聞きたいのは、そんなことではなかった。

「…えぇ、大丈夫ですよ」

ルレイアは、青い顔で答えた。

大丈夫じゃないのは、誰の目から見ても一目瞭然だ。

それでも、ルリシヤはわざとらしく頷いてみせた。

「そうか、なら安心だな。良かった」

「ルリシヤお前…!何を、」

この状況で、何が安心なんだ、とルリシヤに食って掛かろうとした。

そのとき、ルリシヤが視線で俺を制止した。

え?

「じゃあ、俺は退散するとしようか。ルルシー先輩、あとは頼む」

「…!」

何のことはない。

ルリシヤは、自分がこの場を離れ、俺とルレイアを二人きりにする口実を作ったのだ。

ルレイアの過去について、詳しく知っているのは…『青薔薇連合会』でも、俺くらい。

まだまだ新参者であるルリシヤは、ルレイアの過去について、そう詳しくは知らないはずだ。

しかし、この様子を見る限り、決して愉快なものではない、と。

むしろ、ルレイアにとって酷く辛いものであったのだということを、ルリシヤは察したのだろう。

良くも悪くもこの男は、ルレイアに似て、察しの良い人間だ。

ルリシヤは、自分がこれ以上この場にいては、ルレイアが悪夢の内容について話せないと思って…それで、無理矢理退室する口実を作ったのだ。

大丈夫だということにして、自分はこの場を離れようと。

ルレイアが大丈夫でないことくらい、ルリシヤだって分かっている。

それでも、今ルレイアを支えてやれるのは、ルレイアの過去を知る俺しかいない。

そう思って、自分は身を引こうとしているのだ。

「それじゃ、また明日な。何かあったら呼んでくれ、ルルシー先輩」

ルリシヤはさりげなく立ち去る振りをして、一瞬だけアイコンタクトでじっ、と俺を見た。

言葉にしなくても分かる。

あとは頼む、と…。ルリシヤは、そう言っていた。

「あぁ。また明日な」

俺も同じく、アイコンタクトで答えた。

後輩にここまで気を遣わせたのだ。

あとは、俺が何とかしよう。